Sponsored Reviewこのレビューは、HiFiGo 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
中国のIEMブランド中で、製品を神話などの物語に織り込んで独特の世界観を築いている「Kinera (日本では高級機は Kinera Imperial)」というブランド。今回はその Kinera のサブブランド「Celest」から登場した、独自の「スクエア形プラナー(平面磁界駆動型)ドライバー(SPD)」を採用したIEMブランドの2号機、「Pandamon (食鉄獣)」のレビューです。
Image credit: Kinera / Celest
ちなみに「SPD」を初採用した「Gumiho (九尾)」ではSPDを低域に、高域はBAドライバーのハイブリッド構成だったところ、「Pandamon」では進化した「SPD 2.0」を新たに採用し、低域から高域までのフルレンジをSPD×1基のみで再生可能なシングルドライバー機となっています。
Kinera 独自のプラナー(平面磁界駆動)ドライバー「SPD」
先に触れたように、Celest ブランドからは、今回紹介する「Pandamon」の前に「Gumiho」という同じく独自のSPD+BAドライバーのハイブリッド構成の機種がリリースされていますが、「Pandamon」では第2世代の独自開発SPD(スクエア形プラナードライバー)を搭載し、純粋なプラナードライバーのみを搭載するIEMとなっています。
Image credit: Kinera
プラナー(平面磁界駆動)型ドライバーのトレンド
昨今、IEM/イヤホン界隈では「プラナー(平面磁界駆動)型ドライバー」の採用がトレンドの一つとなっており、ダイナミック型ドライバーでは実現が難しかった領域の再現性を高める技術として、目覚ましい進化を遂げているのはこの記事の読者ならご存知でしょう。
一般的なIEM用小型プラナー(PM)ドライバーの例
Image credit: Zhuhai Fine Acoustics Electronic Technology Co., Ltd.
プラナー(平面磁界駆動型)ドライバーは「PM: Planar Magnetic」と略されることが多いのですが、Kinera 独自のこのドライバーは、10mm四方の四角形であることを特徴とし、名称も「SPD: Square Planar Driver」と称しています。
一般的なプラナードライバーとは異なる Kinera 独自方式の「SPD」
少し調べてみると、Kinera の SPD は、通常のプラナー(平面磁界駆動)型ドライバーと基本原理は近しいものの、その構造や構成が異なるようです。
Image credit: Kinera
内部構成がわかる、Kineraから開示されたという写真をみると、通常のプラナードライバーではダイアフラムにS字パターン状に電磁気回路が印字されている所、コイルのようなものが直接取り付けられているように見えます。ここが通常のプラナードライバーとの最大の相違点のようにも見え、方式としてはプラナードライバーではあるけれど、一般的なプラナードライバーとは異なる特性と目的がありそうで、そのため「SPD」と独自の呼称を用いているのではと推察されます。
Kinera ではこの方式で特許を取得しているようで、この「SPD」はダイナミック型でもなく一般的なプラナー型とも異なる、新方式のドライバーと捉えた方がよさそうで、今後の更なる改良で様々な可能性を秘めていそうです。
今回紹介する機種「Celest Pandamon」が $59 (約8千円) という、プラナードライバー採用機としては異例ともいえる低価格を実現しているのも、おそらくこの Kinera 独自の「SPD」がかなり貢献している部分がありそうです。
Celest Pandamon パッケージ開封と付属品など
強烈な個性を放つパッケージ
Celest “Pandamon” は、9cm × 10.5cm、奥行き 4.5cm 程度のコンパクトなパッケージに収まっていますが、「食鉄獣」と金の箔押し文字とともに凶悪そうな “Pandamon” の図が描かれ、ひときわ異彩を放っています。
スリーブを外しても、やはり凶悪そうな「食鉄獣 Pandamon」が現れ、この路線推しで大丈夫なのかとやや不安がよぎります。
充実の付属品
パッケージ内の内容一覧です。イヤーピースは2種類付属していいますが、色が違うだけで形状は同じでした。
先行モデル "Gumiho (九尾)" と同様に、"Pandamon" のメタルチェーンアクセサリーが付属しています。バッグにつけておけば不審者が寄ってくることもないでしょう。
Celest シリーズ共通と思われるキャリングポーチが付属しているのは一見好感が持てますが、「食鉄獣」の魔の手が及んでしました。
なんとポーチを開ける際に指で挟む部分が覆われておらず、金属部が剥き出しです。ポーチを開け閉めするたびに指先に "Pandamon" の牙が刺さります。
尚、内容物一覧写真の左端の紺色の「Pandamon の書」に「Pandamon」の正体から、デザインコンセプト、チューニングコンセプト、ドライバーの特性や想定する利用シーンまで詳細に書かれていますが、印刷がズレ気味で読みづらいので、スマホで写真に撮ってテキスト化し、DeepL などの翻訳ソフトにかけるのが手早いでしょう。
装着感はとてもよい
装着感は非常によく、特に言うべきことが思いつきません。おそらくどんな方の耳にもイヤーピースを選べばしっかりフィットするのではないでしょうか。長時間の装着でも違和感を感じませんでした。
付属のグレー被覆のケーブルは若干タッチノイズがありますが、柔らかくとりまわしはよい方です。
Celest Pandamon の音質レビュー
事前準備
音質レビューの前に、いつものように Burin-in ボトルに入れて、80hほどバーンインしました。 Burn-in には、ピンクノイズ等ではなく、百数十曲のあらゆるタイプの波形や周波数帯を含む「試聴用プレイリスト」をDAPでシャッフル・リピート再生しています。
試聴用プレイリスト
ファーストインプレッション:「かなりの個性派」
Pandamon に搭載された Kinera 独自の平面磁気駆動ドライバー「SPD 2.0」のサウンドは、全体的にはプラナードライバーのような精緻さよりはダイナミック型ドライバーに近いようにも感じ、周波数帯によって質感が異なったりと、特徴のあるなかなか不思議で個性的な音という印象です。
まず感じたのが、低音域〜中音域が非常にソフトな点。かといってぼやけることはなくソフトでありながら存在感があります。
中音域〜高音域もキレや解像度よりはソフトにまとまってるという感じですが、周波数レンジは広く特に高域は16kHzの超高域までなだらかに伸びていたり、独特の特性を持っているようです。またサウンドステージが狭くなるような印象はありません。
こうした特徴から耳馴染みのよい聴きやすさもあり、Hi-Fi とは別の方向性を持ったサウンドにも感じます。
空間表現や解像度など
ドライバーと筐体の構造がセミオープン式で、サウンドステージ/空間はある程度の広さがありますが、無限に広がるような広大な感じはなくおおむねバンド編成のサウンドステージの範囲に収まる印象です。
音の解像度は周波数帯によって大きく変わる印象で、低音域ではソフトに感じ、中音域〜高音域も特に尖った感じではないものの、音の芯はしっかり感じられ一定の解像度があり、ダイナミック型ドライバーの機種にはない独特なテイストを感じます。
低音〜サブベース
低音域は量感は過不足なく出ており、サブベースはやや抑え気味かな?という印象。
そして、先にも触れたように非常にソフトな感じでありながらぼやけて膨らむような感じはありません。この音の質感はダイナミック型ドライバーではほとんど感じたことがなく、セミオープン型「SPD」ならではの表現なのかもしれません。
中音域
おそらく中音域にチューニングの主眼を置いて開発されたんじゃないかな?と思え、非常に心地のよい音がします。全体的にはソフトなテイストの中にもしっかりとした音の輪郭が感じられ、埋もれてしまうような感じは一切ありません。
高音域
トーンジェネレーターでチェックすると超高域が16kHz付近までなだらかに伸びているのですが、特に高音域が強調されることはなく、各音源の倍音が程よく伸びていく印象です。
総評
Celest Pandamon、全体的には Kinera 独自開発の SPD という新方式のプラナードライバーの発展途上という印象はありますが、現状では唯一無二のサウンドでもあり、ゆったりとリラックスして聴きたい時などにはうってつけかもしれません。
が、「食鉄獣」というビジュアルイメージと音質とがかけ離れすぎている印象は否めませんw
もう少しこう、ソフトなテイストのデザインであればサウンドとマッチしそうですが、バリバリにハードコア風味のデザインがミスマッチなのが惜しい所です。
他の方も言及されていましたが、フェイスプレートの "Pandamon (食鉄獣)" の顔のところにステッカーなどを貼って「威圧感」を抑えれば街中でも使いやすいのではと思います。
Celest Pandamon の購入はこちら
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HiFiGo
備考:「Pandamon」とは一体何者なのか? 「Celest」ブランドとは?
製品に同梱のパッケージにも記載がありますが、中国に古くから伝わる、現時点の「ジャイアントパンダ」の生態がよくわかっていなかった頃の想像上の姿が「Pandamon 食鉄獣」のようです。
また、Kinera の新サブブランド「Celest 凤鸣天音」は、2022年7月に誕生したばかりのブランドで、今後も中国の歴史などにちなんだ機種をリリースする予定のようで、今後にも注目です。
Kinera およびそのサブブランド Celest は、どちらもブランドおよび各製品にコンセプトストーリーがあり、その世界観を想像しながら愉しむと言う面でも非常に面白いブランドだと思います。
日本では Kinera Imperial シリーズ以外ではなかなかそうしたブランドや製品ストーリーを目にする機会がありませんが、本国中国のブランド公式微博(Weibo)などでは製品の背景や「Pandamon」という英名は実は人気投票で決まったwなど、詳細な情報が発信されているので、興味のある方は DeepL などと共にチェックしてみてはいかがでしょうか。