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JIALAI CARAT レビュー 〜 小型軽量で多面体フェイスプレートが美しい、同ブランド初のIEM 💡ただしリケーブル推奨

JIALAI CARAT IEM

Sponsored Review
このレビューは、NiceHCK 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
尚、商品の購入先リンクには各販売元が提供するアフィリエイト型収益化プログラムを利用している場合があります。

今回紹介する「JIALAI CARAT」は、IEM/イヤホン用のケーブルを多くリリースしている中国の「JIALAI」ブランドから、ブランド初のIEMとして今年2024年3月にリリースされた $69.99 程度で販売されている機種です。

2024年7月上旬現在、日本円では1万円前後の価格帯になります (私的利用目的での個人輸入では送料等含み16,666円までは消費税(内国消費税)は免除されます)。

この辺りの価格帯は、主に中国の様々なIEMブランドが多種多様な機種を投入している激戦区でもあり、ブランド初のIEM/イヤホンとしては市場の反応を伺うにも好都合な価格帯なのかもしれません。

JIALAI CARAT」のサウンドは、一聴して周波数バランスがよく、立体空間表現も自然で、極端な寒暖感もなく、かなり優等生的な音に感じます。
この辺りは、IEM用ケーブルを販売する JIALAI ブランドとしても、様々なケーブルによる音の違いを感じやすくするために、特に奇をてらわずにニュートラルな特性にしているのでは?とも推測できそうです。

JIALAI CARAT」のドライバーは 1DD 構成。シェルは光沢あるアルミ製で、どこかで見たような美しい多面体デザインのフェイスプレートでとても軽量。イヤホン側コネクターは 0.78mm フラット型 2pin タイプで、JIALAIブランドをはじめとする様々なケーブルにリケーブルできます。

付属品も充実しており、3種類のイヤーピースに加え、フラップ式のセミハードレザーケースが付属しているので、持ち運びや収納にも便利な機種です。

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従来の光沢仕上げ版に加え、7月にマット仕上げの ”Gray Color” 版がリリースされています。

製品コンセプト

Image credit: JIALAI

構成

Image credit: JIALAI

基本スペック

JIALAI Carat
ドライバー構成 ⌀10mm 1DD (Titanium Plated DLC Diaphram)
周波数特性 10Hz – 28kHz
感度 106dB/mW
インピーダンス 32Ω
コネクター 0.78mm 2Pin (フラットタイプ)
付属ケーブル/プラグ 高純度OFC/3.5mmプラグ

パッケージと内容・付属品

パッケージは、光沢あるシルバーの 11.5cm 四方の正方形で、マグネットで固定されたフラップ式のフタを開くタイプで、なかなか凝っています。

フタを開くと、美しいフェイスプレートが宝石のように現れ、この価格帯の機種としてはパッケージの演出にもなかなか力が入っているように見えます。

詳しくは後述しますが、このパッケージング方式が、低価格帯 2pin コネクター機によくある「例の致命的な問題」を発生しやすくしている可能性があります。本機でもその問題が発生しており、簡易的な対策により音質が本来の音質まで劇的に向上しました。

内容・付属品

パッケージ内には、本体の他に、

  • 0.78mm 2pin ケーブル (3.5mm プラグ)
  • 3種類のイヤーピース
  • セミハードケース
  • 取扱説明書 (英語)
  • 品質検査合格証

と必要充分にして最小限のものが入っています。

ちなみに、説明書が英語のみで中国語版が併記されていない点に驚きましたが、淘宝网や京东など中国国内市場を探してもどうもこの機種はリリースされていないようで、中国国外向けの製品としてリリースされたため、英語版の説明書のみなのかもしれません。

イヤーピース (Eartips)

イヤーピースは、

  • グレーのものが口径を含む形状・高さ違いで2種類
  • 某AET08 によく似たブルーのもの

の計3種類が同梱されています。

もともと本体側のノズル部分はそれほど長くないので、高さの低いものや小径のイヤーピースでは、人によってはかなりイヤホン本体を耳に押し込まないと隙間ができやすかったり、押し込んでも隙間ができやすく、特に低音域が抜けてしまいます。

付属のイヤーピース3種類のうち、ブルーのタイプが自分の耳には一番フィットしました。
が、3rdパーティー製の「Softears U.C. Eartips」など、傘が厚手のイヤーピースではよりサブベース域の低い周波数までしっかり再現でき、遮音性や装着安定性も向上し、より良好な結果が得られました。

装着感

シェルの形状から、装着安定性は基本的にはイヤーピースによる固定に大きく依存しやすいですが、比較的小型で軽量なシェルのおかげで、そこそこの安定性はあります。

付属する3種類のイヤーピースの中では、軸や傘の強度がもっとも高い、ブルーのイヤーピースが最も安定し、遮音性も高くなりました。
さらに他社製の、より軸や傘の強度が高いイヤーピースでは、ほぼ全くぐらつきを感じないレベルにまで安定します。

付属のケーブルは、やや剛性があり跳ねやすく、編み方が細かいのもあって、イヤーピースによってはタッチノイズが気になるかもしれません。

ビルドクオリティ

イヤホンシェル本体は非常に高精度で、アルミニウム合金製であることが製品紹介にも明記されていますが、フェイスプレート部については特に言及がなく、表面に若干うねりがあるなど金属感に乏しいため、樹脂にアルミ塗装を施したものかもしれません。この記事トップの画像で多面体部分の境界やフチの部分の反射が若干うねっているのも、そのためです。

また、フェイスプレート部の表面はシェル側に比べて柔らかく、傷がつきやすい傾向があるので、ガラスコート剤などで保護するのも良いかもしれません。

ケーブルは前述の様に編みの細かいタイプのケーブルですが、JIALAI ブランドから単体リリースされているどのケーブルとも異なるタイプで、やや剛性があり跳ねやすいという取り回しの点から、別の柔らかいケーブルにリケーブルするのも良いと思います。

試聴前の準備と試聴環境

Burn-in (エージング)

Burn-in (バーンイン) は計88時間ほど、いつもの「試聴用プレイリスト」のランダムリピート再生で行いました。

Burn-in の流儀や推奨する方法はその意義も含めて様々ですが、個人的な経験則から、ピンクノイズ系の連続音ではなく、自分が実際に聴く、幅広い周波数レンジや様々な波形、トランジェント等を含む100曲以上からなる、DAPやスマホ等ほぼ全てに入れてある「試聴用プレイリスト」で行なっています。

参考:試聴用プレイリスト ストリーミング版

試聴環境

今回試聴には、Astell&Kern KANN ALPHA および HiBy R5 Saber のほか、iPhone 15 に USB DAC として

等を接続したり、MacBook Pro 14"(2021) 上の Audirvana Origin Mac版 に上記 USB DAC を接続し、NAS上の音楽データの他、YouTube や Spotify 等の各種音源でテストしました。

尚、ドングルDACを使用する際は、USBケーブルとして各ドングルDACメーカー付属品より劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S を使用しています。

低価格帯 2pin コネクター機に多く見られる 本体側 2pin 端子の劣化・接触不良問題

当初、そのまま普通に試聴した所、「音のディティールが消えてしまい、ノッペリした音になってしまう傾向」に気づきました。 ちょうど高次の倍音成分が消えてしまったような音で、例えばフルートの音がオーボエの音の様に聴こえてしまう状態です。

この現象は過去にも何度か経験があり、ほぼどれも

  • 低価格帯の 2pin コネクター機
  • 本体と付属のケーブルが分離した状態でパッケージングされている機種

の条件を満たす機種でのみ発生しており、原因は本体側の 2pin レセプタクルの接点の劣化あるいは金メッキ不良による接触不良 であることがわかっています。

JIALAI は自社ブランド初の IEM ということで、その辺りのノウハウがまだなかったのかもしれませんが、実は有名ブランドの製品でもよく見かける現象で、この問題を認識して対策しているブランドとそうでないブランドがあるような気がしています。
生産・流通上は単純に品質管理の問題ですが、生産時にあらかじめ本体とケーブルを接続した状態でパッケージングすることで、ある程度回避はできる問題でもあり、部品調達・品質管理側とパッケージデザイナー側とで、その辺りの情報共有ができていない可能性もあるのでは?と推察されます。

本体側 2pin コネクター接点劣化/接触不良の対処方法

付属ケーブルの 2pin プラグを10数回抜き挿し」することで、かなり改善します。
本体側端子の内径が ⌀0.78mm と爪楊枝の先よりも細いため、手頃な清掃用具がなく、2pin プラグ自体で劣化部分を削り落とすしかありません。

本体側端子は様々なタイプがあるようですが、通常2〜3箇所ほどスリットがあり、スピーカーのバナナプラグを逆にした様な内側に湾曲したスプリング状になっており、ケーブル側のコネクターピンをそのスプリングで挟んで受け、固定する形になっています。
そのため、10回程度ケーブル側のピンを挿抜することで、ピンに接する接点部分が摩擦で削られて接触不良が改善するようです。

謎なのは、端子に施されている「金メッキ」はそもそも基材が酸化など空気を含む化学物質による侵食劣化等を防ぐ「保護」のために行われているはずなのが、その肝心の保護機能が果たされていないという状況。
メッキ不良が疑われますが、金メッキの方式には電解メッキと無電解の金フラッシュなど種類が色々ある上、製造加工時のどの段階でメッキしているのか?も不明です。

この複数のメーカーで多発する、音質に致命的な影響を与える謎現象については、調査でき次第別途記事にしたいと思っています。(果たして製造工程を調査できるのかどうかあやしいですが…) 何か確実な情報をお持ちの方がいらっしゃいましたらぜひご一報いただけると幸いです。

音質

💡注意
イヤホン/ヘッドホンの音の感想は、物理・生理的な違いや知覚・認知特性、嗜好などにより、感じ方の個人差が非常に大きいことに充分留意ください。IEC標準に準拠して測定された周波数特性グラフなども、もともとあくまで規格上の「標準耳」を仮定した上での参考値で、全ての人が測定グラフ通りに聴こえるわけではありません。

全体的な印象

製品の音質レビューは、前述の本体側 2pin ジャックの劣化による音質低下をある程度解消した状態で行なっています。

JIALAI Carat の全体的な音の印象は、「ニュートラル」という言葉が似合うような特にピーキーさや色付け感、周波数帯による「太すぎ/細すぎ」感もない、比較的優等生なサウンドに感じます。

解像度やディティール表現も、とりたてて高すぎず低すぎずで、適度なディティール表現やキレのよさも持っています。
音色としては若干シャキッとしたクールさもあるように感じ、高音域がやや明るめなためか、暖色系よりはやや寒色系寄りで、「Carat」という名の通り宝石の様なキラリとした光のある音を狙っているのかもしれません。

また、低音域〜サブベース域はイヤーピースによる印象の変化が大きく、密閉度の高いイヤーピースほどリッチで重心の低いサブベースが、密閉度が低めのイヤーピースでは軽やかなベース表現になります。ただ、環境騒音のある屋外での使用では密閉度の高いイヤーピースの方が断然よい印象です。

空間表現

JIALAI Carat の空間表現は、「ほぼ標準的」と言えるような自然な空間の広がりと音像定位です。
360°全方向、特段際立った方向への偏りはなくほぼ均一。決して狭くはなく、基本的には頭外定位で自然な空間の広がりと各音像の定位や距離感が感じられます。

オーケストラなど凝ったマイク配置の録音では各楽器の配置がわかりやすく、Electronic Music のように音像が自由に前後左右に動き回る音源では、音像の動きを目で追える様な感じで自然です。

低音域〜サブベース

JIALAI Carat はハーマンターゲットカーブ IE 2019 をベースに、独自のチューニングを加えた周波数バランスとのことで、密閉度の高いイヤーピースを選べば、30Hz前後のサブベース域もそこそこ再現されます。
また、現在の洋楽 Pops で主流化している 40〜50Hz のベース/キックにもしっかり対応し、チタニウムコートのDLCダイアフラムのおかげか、数年前までの機種の様に低音がぼやけとはほぼ無縁で、なかなか立ち上がりのよいサブベースのリズムを刻んでくれます。

また、ハーマンターゲットカーブ IE 2019 と比べて低音域のレスポンスをやや高めの周波数帯にも拡大しているためか、日本や東アジアに多いバンド音楽の 90〜100Hz 前後のバスドラムの帯域もカバーした低音域になっている印象もあります。

中音域

ボーカルや楽器の音が、若干ハスキー気味のような、わずかにざらつき感を伴って聴こえます。
2pin ジャックの接触抵抗が完全に設計通りの水準に達していないための可能性もあり、追加でさらに10回ほどケーブルを挿抜してみましたが、特に変わらず。

この音がこの機種本来の音なのかどうかわかりませんが、なめらか感があまりなくざらつき感が際立つように聴こえます。おそらく高音域の倍音成分の違いによって生じる感覚だと思いますが、倍音成分が少ないタイプのボーカルではざらつき感を感じず、倍音成分が多いほどざらつき感を感じやすい傾向はあります。

付属ケーブルが中高音域の音質のボトルネックだった!

そこで、試しにケーブルを別のものに換えてみた所…なんと、高品質なケーブルに交換すると高音域のざらつき感は一切消え、なめらかな音になりました! つまり「ざらつき感は付属ケーブルの特性/性能が原因」でしたw

先日レビューした、Celest Wyvern Black も全く同じく、付属ケーブルの品質がボトルネックとなって、本来の音質が発揮できていないという現象がありましたが、そこまであからさまでないにしても、まさかこの機種も付属ケーブルが、IEM本体の本来の音質を低下させているとは思いませんでした。

最近の中国メーカー製イヤホン/IEMの事情はよく知りませんが、低価格帯の機種ではこうしたことは多いんでしょうかね?!
従来の常識的には、イヤホン/IEMの付属ケーブルは本体と併せて最適な音になるように、本体とケーブルがセットでチューニングされているのが普通だと思っていましたが、最近の中国ブランドの低価格帯IEM/イヤホンではケーブルは本体とのマッチングを考慮せずに設計/パッケージングしているんでしょうか。

特に JIALAI はケーブルブランドでもあるので、リケーブルを前提に設計されている可能性も考えられ、AliExpress では別のケーブルとバンドル販売もされていますが、その理由がようやくわかった気がしました。

尚、ざらつき感はケーブルの交換で消えましたが、音の硬質感は残っている感じで、やや硬質な音にすることで解像度が高いような印象を与えるチューニングにも思えます。

高音域

付属ケーブルの品質が理由で音質が低下しているという問題が明らかになりましたが、今回のレビューではあくまで「パッケージとして含まれる付属品のケーブル」を前提にレビューを続けます。

高音域は、自分の耳では8kHz付近にはピークが出ず、比較的バランスよく出ている気がします。歯擦音等も特に気になるようなこともなく良好です。

ただ、先に判明した付属ケーブルの品質の影響で、高音域がザラついて聴こえるため、音源のタイプによってはかなり気になる場合があります。
メジャー系 J-Pop やアニソン系では、音源の音質自体が低めなことが多いため、そうした曲を中心に聴く方にはそれほど気にならないかもしれません。

総評

中国メーカーの最近のイヤホン/IEMは、「ハーマンターゲットカーブ」を意識するようになってから、周波数バランスが現代の海外の音楽では非常に重要な「サブベース域」も含め劇的に改善し、極端に帯域バランスが崩れた機種が少なくなった印象があります。むしろ日本のメーカーの方がそうした技術的なセオリーを取り込めていないイメージすらあります。

しかし、数十ドルクラスの低価格帯の機種では、本体側 2pin 端子の品質や、付属のケーブルの品質がボトルネックとなって、イヤホン本体の性能を発揮できていない事例をここ最近頻繁に見かけるようになり、辟易としている所です。

国内外のレビューでもそうした部分に言及したものが少なく、海外の大手レビューメディアでも低価格帯の機種はあまり採り上げないため、まさか今はこんな状況になっているとは思いもしませんでした。

このブログを作るきっかけになった TRN X7 に端を発し、このところレビュー依頼機でこうした製品品質上の問題が続発しており、その品質異常の原因調査に時間がかかりすぎるため、今後は$100未満のIEM/イヤホンのレビューは受けない方向にしたいと思います。

中国ブランドのイヤホン/IEMを選ぶ際に注意すべき点

今後中国ブランドの$100未満のIEM/イヤホンを選ぶ際の一つの目安として、次の様な点に注意する必要がありそうです。

  • パッケージングで、本体とケーブルが接続されていない製品は避ける
  • ケーブルの外観がいかにも不穏な雰囲気のする製品は避ける
  • Head-Fi などで、レビュワーによって極端に評価が異なる製品は避ける

それでも中国系ブランドの有線IEMの進化は目覚ましい

$100未満の機種は、前述の様な問題に遭遇する可能性がありますが、それでも中国ブランド系イヤホン/IEM自体の性能や特性の進化は、さまざまな音響理論の知見の普及や技術開発の進展に加え、3Dプリンターによるシェル成形が一般化したことで、従来はほぼ不可能だった音響構造を内部につくることができるようになり、全体的には飛躍的に音質性能が向上しているのを実感します。

この辺りはむしろ日本のブランドの方が遅れをとっているのではと思えるほどで、今回の JIALAI CARAT の音響性能・特性をこの価格で実現するのは、日本の多くのブランドではおそらく不可能ではとも思えます。

JIALAI CARAT のターゲット層

JIALAI CARATは、付属ケーブルの品質が低いため、リケーブルを前提とするポータブルオーディオファン向けには、おすすめできる機種と言えそうです。
また、通常の購入であれば、2pin 端子の接点不良があった場合は、交換修理対象になることが多いと思います。

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”Gray Color”

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