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JUZEAR Butterfly 61T レビュー 〜 音質・周波数バランス・装着感 全てにおいて心地よく脅威的音質性能の美麗なIEM

JUZEAR Butterfly 61T IEM Review

Sponsored Review
このレビューは、HiFiGo 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
尚、商品の購入先リンクには各販売元が提供するアフィリエイト型収益化プログラムを利用している場合があります。

今回は、JUZEAR (匠音君子) という中国のIEMブランドから、2024年6月にリリースされた「Butterfly 61T」という新機種のレビューです。

個人的にこのブランドを知ったのは実は今回初めてで、中国的な美麗感溢れるフェイスプレートも際立っていますが、初めて聴いたとき、びっくりするほど周波数バランスがよく超ワイドレンジな音、まるでベルベットのように上質な質感ある鳴り方、さらには装着感の心地よさにも驚き、この音で $219.99 という価格で大丈夫なのか?と思ってしまいました。聴いた瞬間に「あ、これはすごい…」となる機種は久しぶりです。

JUZEAR “匠音君子” ブランド

中国国内での「匠音君子」ブランド自体は、2019年に商標登録されており、少なくとも5年以上は歴史のあるブランドのようで、主にカスタムIEMを中心とし、ユニバーサルIEMも手がけています。

そして「JUZEAR」というアルファベットのブランド名は、「匠音君子」の英文表記 “JIANGYIN JUNZI AUDIO” から「JUNZI」→「JUNEAR」→「JUZEAR」と変遷して落ち着いたようです。

この「JUZEAR 匠音君子」ブランド製品の製造メーカーは、上海に拠点を置く「上海匠览科技有限公司」という会社で、深圳や成都などが多い中国のポータブルオーディオ/IEMメーカーの中では、少し意外な面もありますが、中国各地や世界を結ぶ産業や文化、音楽など交易の中心地ならではのメリットも大きいのかもしれません。

「君子」(Gentleman) の名を冠した格調と品格あるブランド

中国語の「君子」は日本語での「君子」と同じ意味で、英訳では「紳士」や「高貴な人」を表すなど、格調と品格をうかがわせるようなブランド名です。

匠音君子 JIANGYIN JUNZI AUDIO

フェイスプレートには漢字の「君」をモチーフに、“JIANGYIN JUNZI AUDIO” の中の「J」「a」をデザインしたロゴマークが記されてされていますが、日本を含む漢字言語圏の方なら「君」の文字だとすぐわかるというのは、東アジアの歴史的な文化圏のつながりも感じられ面白いところです。

2023年頃 JUZEAR グローバル市場進出開始?

「匠音君子」は中国本土ではカスタムIEMを中心に展開しているようですが、「JUZEAR」ブランドのユニバーサルIEMは、中国国外向けには、2023年の夏頃に「JUZEAR 41T」という4BA+1DDのモデル ($163.99) と「JUZEAR CLEAR」という 1DD のモデル ($49.90) がリリースされ、どのモデルも価格帯に対してかなり評判が良いようで、中国国外での認知が広がってきているようです。

中国国内市場では、他にも 5BA+1DD の「JUZEAR 51T」というモデルや、「JUZEAR 41T」のブルーモデルが出ている他、「V5」や「V0」といった、カスタムIEM/セミカスタムIEMが人気を博しているようです。

2024年6月リリースのグローバルモデル「JUZEAR Butterfly 61T

そして、今年2024年6月にグローバル市場に向けて正式リリースされたのが、今回紹介する 6BA+1DDの「JUZEAR Butterfly 61T」です。

41T、51T、61T といった型番は、おそらくハイブリッドドライバー機の各ドライバー数を表しているのでは?と思われますが、61T だけは “Butterfly” =「蝶」をデザインコンセプトに採り入れており、蝶の翅の様に美しいフェイスプレートと共に、ひときわ印象的な機種になっています。

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製品コンセプト

※日本語は参考訳です。

The "JUZEAR" is an independently crafted brand by Crafted Sound, bringing together a team of seasoned audio engineers and equipped with advanced production facilities. Our mission is to become the beloved brand of audio enthusiasts. We continuously strive to enhance and optimize in terms of craftsmanship, materials, sound experience, and value for money. We uphold the belief of "not disappointing the prime of life", always staying true to our original aspiration, and moving forward with determination.

「JUZEAR( ジャズイヤー)」は、熟練のオーディオエンジニアのチームを結集し、高度な生産設備を備えると共に、Crafted Soundにより独自に立ち上げたブランドです。私たちの使命は、オーディオ愛好家に愛されるブランドになることです。私たちは、クラフトマンシップ、素材、音響経験、価格に見合う価値を高め、最適化する努力を続けています。私たちは「人生の最高の時を失望させない」という信念を堅持し、常に初志を貫徹し、決意を持って前進していきます。

JUZEAR presents the Butterfly 61T, a perfect fusion of music and technology, showcasing JUZEAR's exceptional pursuit of sound quality. With a seven-unit configuration on each side, the 61T is equipped with a newly designed 10mm bass dynamic driver, complemented by custom balanced armatures and Knowles armatures. The faceplate is meticulously crafted using CNC carving, while DLP high-precision 3D printing and high-durability resin further elevate the sophistication of the Butterfly 61T. Achieving new heights in sound quality, the JUZEAR Butterfly 61T offers an extraordinary auditory experience.

Butterfly 61Tは、音楽とテクノロジーを完璧に融合し、JUZEARの卓越した音質追求の姿勢を示すモデルです。左右7ユニット構成の61Tは、新設計の10mm低域ダイナミックドライバーを搭載し、カスタムバランスド・アーマチュアとノウルズ・アーマチュアによって補完されています。フェイスプレートはCNC切削加工で丹念に仕上げられ、DLP高精度3Dプリントと高耐久性樹脂がButterfly 61Tの魅力をさらに高めています。JUZEAR Butterfly 61Tは、新たな音質を実現し、特別な音響体験を提供します。

The performance of the JUZEAR Butterfly 61T is like a masterful symphonic canvas, clear and profound, full of charm. The treble resembles the morning sunshine, crisp and bright; the midrange is like the warm sun in the after-noon, warm and enticing; the bass is like whispers in the deep night, deep and powerful. These elements blend together to create a rich and full timbre, making you feel as it you are immersed in an ocean of music.

JUZEAR Butterfly 61Tのサウンドは、まるでシンフォニックなキャンバスのようで、クリアで深みがあり、魅力にあふれています。高音域はさわやかで明るい朝の太陽のようであり、中音域は暖かくうっとりするような昼下がりの太陽のようであり、低音域は深く力強い夜のさざなみのようです。これらの要素が溶け合い、豊かでふくよかな音色を生み出し、まるで音楽の海に浸っているかのような気分にさせてくれます。

The accuracy and authenticity of the JUZEAR Butterfly 61T are also major highlights. Whether it's the timbre of instruments, the emotions in singing, or the subtle details within the music, it reproduces them with astonishing precision and realism. Every note and every beat is conveyed clearly, making you feel as it you are right there, experiencing the allure of the music.

JUZEAR Butterfly 61Tは、高い精度と真正性も大きな特徴です。楽器の音色も、歌声の感情も、音楽の中の繊細なディテールも、驚くほどの精度とリアリティで再現します。一音一音、ひとつひとつのビートがクリアに伝わり、まるでその場にいるかのような臨場感で音楽の魅力を体感できます。

In the future, we will continue to offer customized headphone services, looking forward to exploring the endless charm of music with you.

私たちはこれからも、カスタマイズされたヘッドフォン・サービスを提供し続け、皆さんと一緒に音楽の終わりなき魅力を探求していきたいと思います。

Credit: JUZEAR

構成

Image credit: JAZEAR

独自技術等

Image credit: JAZEAR

JUZEAR Butterfly 61T 基本スペック

Brand: JUZEAR Model: Butterfly 61T
ドライバー構成 4-way(?)クロスオーバー 7ドライバー
  • Low: ⌀10mm 1DD (CCP: Composite carbon-based coated PU-folded membrane)
  • Mid: 2× Knowles ED BA Drivers
  • High: 2× JUZEAR 31736 Custom BA Drivers (デュアルエンクロージャー, 計4BA)
感度 115dB ±1dB SPL/mW
インピーダンス 46Ω
周波数特性 20Hz – 20kHz
周波数応答品質保証(FRQA/QC) ±1dB
THD ≦0.6%
遮音性 26dB
シェル 高精度DLP光造形3Dプリント 高耐候性レジン製ハウジング
コネクター 0.78mm 2Pin
付属ケーブル 18AWG 銀メッキ 6N OFCケーブル
プラグ 2.5mm, 3.5mm, 4.4mm プラグ 購入時選択式

パッケージと内容・付属品

JUZEAR Butterfly 61T のパッケージは、19cm × 14.8mm の辞書のようなサイズ感です、スリーブ表面には美しい写真が印刷され、裏面にはスペックと製造元が中国語と英語で印刷されています。

スリーブを外し、黒い箱を開けると…
「Butterfly」の名にちなんだ蝶のイラストと “Listen to the sound of nature” との文字が印刷された白いハトロン紙のカバーが。

そしてその下には、美しいシェル本体とセミハードケースが!
2pin コネクターなので、初めからケーブルがシェルに装着された状態になっているのは、本体側端子の劣化を避けられるパッケージングで嬉しい!

ここ最近レビューした低価格帯の機種が、ことごとくケーブルとシェル本体分離パッケージで、シェル側の2pin端子がメッキ不良なのか酸化等の汚れなのか接触不良で端子(直径0.78mmの穴の中)を掃除しないと音がまるで違っていて懲り懲りしていたところなので…

内容・付属品

パッケージ内には、

  • IEMシェル本体にケーブルとイヤーピース(M)が取り付けられた状態のもの
  • セミハードケース
  • イヤーピースの入った袋 (シリコーン製 S/M/L, フォームタイプ M/L)
  • クリーニングクロス
  • 取扱説明書 (英語と中国語)
  • 品質検査票

と、必要にして充分なものがすぐ使える状態で収められています。

イヤーピース (Eartips)

付属するイヤーピースは、

  • 形状と構造的には SpinFit によく似た、しかし開口部の口径が大きなものが色分けされたシリコーン製のものが S/M/L の3サイズ
  • グレーのフォームタイプのものが、おそらく M/L の2サイズ

付属しています。

セミハードケース

個人的に嬉しかった付属品がこのセミハードケース。
大きすぎず小さすぎずで、やや太めの付属ケーブルを装着した状態で、きれいに収まるサイズ。大きさはおおよそ「幅 10cm × 奥行 8cm × 高さ 3.5cm」。

さらに、ジッパーの外側にカバーがあり、ジッパーを閉めた時にジッパーが隠れて、何かにひっかかったり細かなチリなども入らないタイプなのも◎。

装着感

シェル本体は一切角がなく丸みを帯びており、qdc に似た耳介への返しのでっぱりもある形状で、非常に装着感が気持ち良く、長時間の装着でも気になったり痛くなったりしません。もちろん個人差はあると思いますが。

ケーブルのタッチノイズは、イヤーピースが耳にぴったり合っている限りはほとんど気にならず、騒音低減(ノイズアイソレーション)効果もあります。

イヤーピースは普段より一回り小さめがよいかも

一つ注意点を挙げるとすれば、意外とノズル部が長めののため、イヤーピースは普段より一回り小さいものにし、耳の奥にフィットするものにするときれいに耳におさまるようです。

上の写真は付属のイヤーピースのうち「Mサイズ」を装着した状態で耳型に挿入したもので、ややノズル部が飛び出し気味になっていますが、「Sサイズ」にするときれいに収まるイメージです。

試聴前の準備と試聴環境

Burn-in (エージング)

Burn-in (バーンイン) はマニュアルに「100時間」推奨と記されており、いつもの「試聴用プレイリスト」のランダムリピート再生で行いました。

Burn-in の流儀や推奨する方法はその意義も含めて様々ですが、個人的な経験則から、ピンクノイズ系の連続音ではなく、自分が実際に聴く、幅広い周波数レンジや様々な波形、トランジェント等を含む100曲以上からなる、DAPやスマホ等ほぼ全てに入れてある「試聴用プレイリスト」で行なっています。

参考:試聴用プレイリスト ストリーミング版

試聴環境

今回試聴には、Astell&Kern KANN ALPHA および HiBy R5 Saber のほか、iPhone 15 に USB DAC/AMP として

等を接続したり、MacBook Pro 14"(2021) 上の Audirvana Origin Mac版 に上記 USB DAC を接続し、NAS上の音楽データの他、YouTube や Spotify 等の各種音源でテストしました。

尚、ドングルDACを使用する際は、USBケーブルとして各ドングルDACメーカー付属品より劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S を使用しています。

音質

💡注意
イヤホン/ヘッドホンの音の感想は、物理・生理的な違いや知覚・認知特性、嗜好などにより、感じ方の個人差が非常に大きいことに充分留意ください。IEC標準に準拠して測定された周波数特性グラフなども、もともとあくまで規格上の「標準耳」を仮定した上での参考値で、全ての人が測定グラフ通りに聴こえるわけではありません。

全体的な印象

JUZEAR Butterfly 61T、リスニング向けIEMとしてほぼ完璧。以上。 と言いたくなるような、音も見た目も装着感も付属品もほぼ完璧な、まさにダークホース的存在のIEM。

類まれな自然で絶妙な周波数バランス

JUZEAR Butterfly 61T の再生周波数は、20Hz付近から20kHzまでほぼスペック通りの範囲で、下限から上限まで「人間の聴覚感度に沿った周波数特性」を素直に再生でき、自然界で聴こえる様々な音とほぼ同じ周波数バランスで、違和感をほとんど感じません。

自分の耳では歯擦音の刺さりもなく、最近は少なくなりましたが、多くのイヤホン/IEM で 8kHz 付近にピークが出やすい現象もなく、中音域〜高音域は一般的な Hi-Fi スピーカーで聴く周波数バランスとほぼ同様です。

中音域にはKnowles製の、高音域にはJUZEAR独自のBAドライバーを開発・採用している他、各帯域のドライバーの特性をフィルターや位相で制御するクロスオーバー回路および、3Dプリンターで成形される各音導管の設計とチューニングもかなり綿密に行われていそうで、ブランドポリシーに掲げる通りの技術力の高さが伺えます。

ちなみに、ヘッドホンやイヤホンでの「人間の聴覚感度に沿った周波数特性」の一つは、あるオーディオメーカーが、実際にリファレンスクラスのスピーカーを設置したリスニングルームにダミーヘッドマイクを設置した実験で得られた周波数特性がよく知られています。通称「ハーマンターゲットカーブ」とも呼ばれていますが。

Image credit: HARMAN INTERNATIONAL

ただし、メジャー系 J-Pop やアニソン系(ACG)、バンド系音楽のように、音楽自体が相対的にナローレンジで立体感のあまりない音源を中心に聴く方の場合は、上記の様な点を感じられるかは不明ですので、他の方のレビューを参照ください。

音色は基本ナチュラル系

音色は、基本は宣伝文句通りのナチュラルな音で、やや暖色系あるいはマイルドなテイスト。しかし寒色系のシャープな音源では、音源に忠実にシャープな寒色系の音を再現し、音源のもつ傾向を良い方向に活かすようにも感じます。

そして、なんといっても個人的に特徴的だと感じたのは、20Hz近いサブベースから全周波数帯にわたって、微妙な音のニュアンス表現が非常に巧みな点。

中高音域のボーカルや楽器などの絶妙なニュアンス表現はもちろんのこと、特にサブベース域の微妙な表現が絶品で、ちょうど映画館などで迫力を出すために鳴らしたり体感するサブベースの効果音や振動などをオーディオとしてグレードアップしたものをイメージすると近いかもしれません。

特にサブベースが多用される海外の Electronic Pop などの Electronic Music、EDM、Hip-Hop 系音楽などでは、今までイヤホンやヘッドホンではあまり感じることの少なかった、音楽/音源が本来もっている空気感やニュアンスをありありと感じやすく、改めて自分がよく聴くそうした音楽を聴き直したくなります。

感覚的な「解像度感」よりもシルクのようにきめ細かさのある上質な高解像度

解像度は物理的にはおそらくかなり高いと思われますが、感覚的に解像度が高いかのように感じやすい、クッキリざらつきのある感じではなく、きめ細かなシルクやベルベットのような微細な解像度をもつ印象です。この記事の冒頭でベルベットのような質感と表現したのも、初めて聴いた時にその感覚がかなり際立って感じられたためです。

イヤーピースでかなり音の雰囲気が変えられる

付属の SpinFit にもよく似た、しかし開口径の大きなイヤーピースでは、ほぼ標準的なサウンドで楽しめますが、本体のノズルが長めということもあり、イヤーピースを変えることでさらにグレードアップしたり、好みの雰囲気に変えやすいという特性も持っています。
また、付属品にはフォームタイプのイヤーピースも含まれ、フォーム密度が高いためか高域の減衰も比較的少なく、フォームタイプが好みの方にも安心です。

手持ちのイヤーピースを色々試して、好印象だったのはこちら:

ノズルが長めのため、いずれも普段使いより「1サイズ小さいもの」が、耳の奥まで入ってフィットしやすい感じです。
耳に完全にフィットすると、遮音性が非常に高く、ケーブルのタッチノイズも全く気になりません。

空間表現

空間は上下左右奥行方向ともやや広めで、窮屈さのない自然な広がりがあります。
音像の定位位置や大きさ、動きなども、モニター機ほどでないにしてもわかりやすく、自然に音の空間に身を投じる感覚です。

空間表現/音像定位は、基本的には音楽制作時のミキシングの意図によるものですが、イヤーピースによって若干変わる部分でもあるので、色々試してみる価値はあるかもしれません。

Kalki - Varanasi (Official Music Video)
立体的な空間と目まぐるしく三次元で動く音像といえば、定番のこの曲。シングルエンドで文句なしに音に包み込まれる優秀な立体的表現が楽しめます。

低音域〜サブベース

JUZEAR Butterfly 61T のサウンドで最も特筆すべきは、サブベース(超低音)かもしれません。

サブベースは、20Hz付近まで全く手抜かりなくしっかり鳴らす能力があり、低音域まで含めボヤけ感は特になく、質感やスケール感を感じるようなサブベース〜低音が楽しめます。
もちろんイヤーピースの装着状態によって大きく変化しますが、ぴったりフィットしたイヤーピースで、本機の持つ性能が如何なく発揮されます。

Image credit: JUZEAR

JUZEAR Butterfly 61T のダイナミック型ドライバーは、ダイアフラム(振動版)の面積のほとんがセンタードームという、大型ドームのカーボンコンポジット+PUベースの複合ダイアフラムを採用しており、その特性なのか、サブベースに若干余韻がある様にも感じられ、一見低音の制動が弱いのかな?と思わせつつ、実はサブベース域の微妙なニュアンスが感じられるほどの強力なドライブ能力があったりと、ちょっと面白い鳴り方です。

SICK INDIVIDUALS - Dance With Me (Official Music Video)
0:07 秒目、0:43 秒目付近などのサブベースが、ズシリとした質感を伴って響くのがしっかり聴き取れます。「サブベースの質感」まで感じられ、サブベース過多にならない機種は、今まで滅多にお目にかかることがありませんでした。

最近の他の海外メーカー機と同様に、世界の音楽の周波数分布の主流に準じた特性のため、バスドラムの主要帯域 90Hz〜100Hz 前後は相対的に聴感上は抑えめになっており、日本のバンド系ポピュラー音楽を主に聴く方には、やや低音が物足りないと感じるかも知れません。

これは、音楽制作文化が世界でも「日本だけ」特殊という事情によるため、グローバル市場で販売されるイヤホン/IEM側でどうこうする部分ではなく、日本のユーザーは上流の再生機器など環境側で補正せざるを得ないと思います。日本の音楽制作業界のみに固有の悩ましい問題です。

中音域

春は曙、中音域は「絶品」。
ボーカルやアコースティック楽器の音がとても自然で、それぞれの微妙で繊細な特徴が的確にディティールまで表現されるため、非常に心地よく、ただただ聴き惚れます。

もちろん、中音域の音は高音域の倍音成分とセットになっているため、高音域のディティールの再現性やリニアリティが高いことで、中音域がリッチな音として聴こえます。

Pentatonix - The Sound of Silence (Official Video)
言わずと知れた名曲の、Pentatonix によるア・カペラでのカバー。もはやイヤホンで聴いていることを忘れて、それぞれのメンバーの卓越した表現力に惹き込まれます。

高音域

総じて伸びの豊かな透明感ある高音〜超高音域を特に気にすることなく楽しめます。
製品紹介に掲載されている周波数特性グラフでは、8kHz付近にピークがありますが、トーンジェネレーターアプリで試してみたところ、自分の場合は 8kHz ではなく 9.2kHz にピークが現れました。

Image credit: JUZEAR

これは他の機種のレビューでも触れましたが、個人差の大きい外耳道の長さによって共鳴する周波数が異なるものの、IEC 60318-4 準拠の測定方法では「世界の平均的な耳」を仮定して計測するためです。

自分の耳の外耳道の長さが「世界平均耳」の外耳道より長かったり短かったりすると周波数特性グラフの概ね4kHz以上は大きく周波数がずれる形になるので、周波数特性グラフを見る際には注意が必要です。

「自分の場合は」歯擦音の刺さりもなく(刺さるか否かは前述の個人差によって変わります)、ピークが気になるような帯域もほぼなく、8〜9kHz 付近のピーク(自分の場合は 9.2kHz)から上は 16kHz 以上まで、なだらかに伸びて減衰していく感じです。

al-pha-x - Blue Love
ラウンジ系の Electronic Music ですが、0:41 付近からのややハスキーな女声ボーカルと、1:01 付近からの右上から聴こえる長めのリバーブがかかった金属系の Electronic サウンドの対比や、さまざまなエフェクトも面白く、シンバル系の音も入るので、高音域の繊細な表現力も実感しやすい曲です。

総評

JUZEAR Butterfly 61T。日本では、一部のファンを除いてほぼ無名に近い中国ブランドのIEMで、ここまで卓越した特性を持つ機種があったとは、本当に驚きです。

3Dプリントシェルに、CNC加工による複合素材の美しいフェイスプレートなど、最近のIEMの特徴を備えつつ、特段クセの少ないナチュラルな、しかしある意味クセになるようなサウンドと装着感、ケーブルを含めた質の高さは $220 クラスとは思えないレベルで、今まで経験のないタイプの機種なのは確かです。

円安の進んだ現時点(2024年7月下旬)においても、日本円で「3万円台中盤」という価格でこの性能と品質の機種が手に入るのは驚異的です。
かつ個人的に素晴らしいと思うのは、製品パッケージングとして、大きすぎないセミハードケースなど、必要不可欠なものが全て入った状態でこのクオリティと価格という点。

日本と海外とでハイエンドオーディオ業界と同様の「分断」は果たして起きるのか?! (すでに起きてる説…

個人的に、日本のイヤホン/IEMメーカーやブランドは「日本の音楽では使われていないサブベースなど知らない」といった感じで、ひたすら日本特有の音に合わせないと売れなくなっている他、今回の「JUZEAR Butterfly 61T」に匹敵する音響性能を持つ機種となると確実に10万は超えるため、基本的にスルーしています。

近年は、海外のハイエンドオーディオ機器が、海外のユーザー層にも人気のある EDM の再生能力を高めることで性能が劇的に向上しているなどの話題がありますが、IEM/イヤホンにおいても、日本以外のブランド/メーカーではやや似た傾向が見られる様になってきた気がします。

音楽文化や業界慣習などの影響で、日本の高年齢化が進むハイエンド/Hi-Fiオーディオ業界も海外との溝が生まれつつある中で、ポータブルオーディオも海外との溝が深くなっていくのはほぼ確実ではと思われますが、中国のメーカーやブランドに関しては、一部のブランドが日本のアニメ/ゲーム系との親和性が高い製品を多く作っているという面があるため、当面は日中双方のメーカーやブランドが共存して競争できそうな状況であるのは、日本のユーザーにとっては安心材料でしょう。

しかし、ここ最近の中国・東アジアメーカー/ブランドのイヤホンやヘッドホンにおいて、ターゲットとする音楽は、特にサブベースの再現能力の劇的向上など、グローバル化指向が高まっている雰囲気もあり、個人的には嬉しい反面、日本の音楽業界と同じ船に乗った日本のオーディオ業界はどうなってゆくのか、気がかりではあります。

JUZEAR Butterfly 61T の高いポテンシャルはゲームチェンジャーになりうるか?!

今回は、JUZEAR Butterfly 61T の製品レビューですが、徹底的に試してみた結果、その性能のポテンシャルからは確実にグローバル市場を意識していることは明らかで、最近躍進が目覚ましい新興ブランド「AFUL Audio」や「THIEAUDIO」などと共に新しい時代が押し寄せてきているのを感じます。

このとんでもない性能と品質を持った JUZEAR Butterfly 61T が3万円台という事実。ポータブルオーディオの最新動向を知るためにも、とりあえず買っておかない手はないと思われます。非常におすすめです。(←ちょっと勇み足すぎw

このところの為替変動が激しいですが、1万円台後半〜2万円前後なら「AFUL Explorler」、4万円以下の3万円台クラスなら「JUZEAR Butterfly 61T」が今の個人的オススメです。

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