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SIVGA Que UTG レビュー 〜 世界初!平面ガラス振動板の驚くべき音響性能

Sponsored Review
このレビューは、SIVGA 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
尚、商品の購入先リンクには各販売元が提供するアフィリエイト型収益化プログラムを利用している場合があります。

驚きました。「ダイナミック型ドライバー」のイヤホン/IEMのブレイクスルーとも言える、画期的な技術を採用した製品が登場しました。

従来、大型のプラナーマグネティック型ドライバーや、BAドライバーを複数使ったり、コストをかけて実現しようとしていた以上の音が、ダイナミック型ドライバーに特殊な平面ガラス振動板を採用することで、ほぼ実現できてしまっています。
周波数特性も20Hz以下の超低音から超高音域までの完全なフルレンジと、広大なダイナミックレンジを、たった1基のドライバーで超低歪みかつ超高解像度で。しかも現在の日本円で1万円台中盤 ($97.9 USD) というエントリー価格帯で。

世界初!ダイナミック型ドライバーの平面振動板として採用された化学強化専用超薄板ガラス「Dinorex UTG®」

SIVGA Que UTG の最大の特徴にして、イヤホン/IEM業界にとっても画期的なのが、搭載するダイナミック型ドライバーの振動板に日本電気硝子(NEG)社製の化学強化専用超薄板ガラスDinorex UTG®」を採用している点です。

SIVGA Que UTG structure
Image credit: SIVGA

折りたたみスマホの画面にも採用されている「Dinorex UTG®」

「Dinorex UTG®」(ダイノレックス UTG)は、モトローラ社製の折りたたみ画面スマホ「motorola razr 50/60シリーズ」にも採用されている、180°曲げても割れない特殊な超薄板ガラス素材で、オーディオ以外の分野ではすでに様々なシーンで使われているようです。

Dinorex UTG (化学専用超薄板ガラス)曲げ試験

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化学強化専用ガラス Dinorex® (ダイノレックス) PV

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ガラスの「化学強化」とは?

ナトリウムイオン(Na⁺)を含んだガラスを、カリウムイオン(K⁺)を含む硝酸カリウム溶液に浸すことで、ガラスの表層部にあるNa⁺が、溶液中のより径の大きなK⁺と置き換わります(これを「イオン交換」と呼びます)。すると、ガラスの表面に圧縮応力※という力が生まれ、例えば、ハンマーで叩いても割れないほどに強靭なガラスとなります。

ガラスの化学強化(イオン交換) 出典: 化学強化専用ガラス:Dinorex® | 日本電気硝子(NEG)

「Dinorex UTG®」を振動板に成形したスピーカー/ドライバーを開発する台湾のGAIT社

そしてこの「Dinorex UTG®」を、日本電気硝子(NEG) がパートナーシップを結んでいる台湾の企業 Glass Acoustic innovations Co., Ltd. (GAIT) による成形技術によって、平面型振動板のダイナミックドライバーの開発に成功し、そのIEM向けドライバーを世界で初めて採用したのが「SIVGA Que UTG」です。

UTG振動板のダイナミック型ドライバーは他の平面型ドライバーを超えるか?

通常のガラスとは異なる強靭な物性をもつ「化学強化ガラス」は、従来のPPやPETなどの樹脂やベリリウムやチタンなどの金属とは、音響的にも大きく異なる特性を持った素材で、振動板に求められる性質をあらゆる項目で高い次元で実現しており、現時点ではダイナミック型ドライバーにとって、最も理想的な物理特性を持つ振動板素材の一つと言っても過言ではないでしょう。

そして驚くのがその価格。プラナーマグネティック型ドライバーの機種も、年々価格が下がってきてはいますが、性能比 (コストパフォーマンス) で比べるとUTG振動板のダイナミックドライバーには遠く及ばないように感じます。

平面型UTG振動板は、振動板の動作のみに着目すると、プラナー・マグネティック型ドライバーの振動板の動作にも近い部分がありますが、精緻で複雑な構造が不要なため、それに匹敵あるいは上回る音をはるかにシンプルな構造かつ低コストで実現してしまったかのようにも見えます。

また、現状の生産体制にもよると思いますが、今後UTGドライバーを採用する機種が増えてくると、さらなる高性能化や低コスト化も予想され、ダイナミック型ドライバー、あるいはIEM/イヤホン業界にブレイクスルーをもたらす可能性も高い、非常に期待できる技術と素材と思います。

その他の構成

ベース機「SIVGA Que(鹊)」との外見上の相違点

「SIVGA Que(鹊) UTG」の基本構成は 「SIVGA Que(鹊)」をベースにしており、外見状は亜鉛合金製シェルのフェイスプレートに調音材として貼り付けられた木材が、「メイプルウッド」から南米産の「グリーンサンダルウッド (緑壇)」に変更、ノズルの金属素材が変更されています。

また、付属のケーブルが 3.5mm / 4.4mm 交換可能なプラグとともに、より高品質なものに変更されています。
そのほかは、付属のイヤーピースのうち短いタイプが、白からダークグレーに変更されています。

SIVGA Que UTG 基本スペック

Model SIVGA Que UTG
ドライバー構成 ⌀10mm UTG ガラス振動板 ドライバー
シングルマグネット & デュアルキャビティ
周波数特性 20Hz – 20kHz
感度 103±3dB
インピーダンス 32Ω
重量 10g (片側)
コネクター 埋込型 0.78mm 2Pin
付属ケーブル/プラグ 7線×7芯×4 高純度銀メッキ Litz OFC/3.5mm, 4.4mm 交換式プラグ

パッケージと内容・付属品

内容・付属品

SIVGA の定番のレザーケースは、交換用プラグの予備や別のタイプのイヤーピース、あるいは小型のドングルDAC等も収納でき、高級感もある非常に使い勝手の良い付属品だと思っています。

付属ケーブル

アップグレードされた付属ケーブルもタッチノイズが少なく、取り回しが非常によいケーブルです。

Image credit: SIVGA

装着感

外形は SIVGA Que と同一形状のため、快適な装着感も受け継がれています。

試聴前の準備と試聴環境

Burn-in (エージング)

SIVGA Que UTG は化学強化ガラス振動板という高剛性素材を採用しているという物理的特性から、バーンインは必要ないのでは?と予想しつつも、念のため40時間程バーンインしてみましたが、やはり音響的に目立った変化はありませんでした。

バーンインが必要なくエージングによる変化もほぼないというのも、UTGガラス振動板の大きなメリットかもしれません。

試聴環境

試聴に使うDAPには、今回から KANN ALPHA の ES9068AS (および ES9069Q) 特有の音質特性異常問題のため機種を変更し、

をベースとし、他に、

に USB DAC として

等のドングルDACを接続。端末内およびNAS上の音楽データの他、YouTube や Spotify 等の各種音源でテストしました。

尚、ドングルDACを使用する際は、USBケーブルとして各ドングルDACメーカー付属品より劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S また、iPhone 等スマートフォンにバンドルする際は、最短距離で接続できる HAGiBiS UC4MC を使用しています。

参考:試聴用プレイリスト ストリーミング版

音質

💡注意
イヤホン/ヘッドホンの音の感想は、物理・生理的な違いや知覚・認知特性、嗜好などにより、感じ方の個人差が非常に大きいことに充分留意ください。IEC標準に準拠して測定された周波数特性グラフなども、もともとあくまで規格上の「標準耳」を仮定した上での参考値で、全ての人が測定グラフ通りに聴こえるわけではありません。

全体的な印象

日本電気硝子(NDG)社製の化学強化専用超薄板ガラス「Dinorex UTG®」を振動板に採用した効果は聴いてすぐにわかるほど劇的なものでした。
「SIVGA Que UTG」は、ベースモデル「SIVGA Que」とは、外見はほぼ同じでも全く別の機種と考えた方がよいでしょう。

全周波数帯にわたって全く濁りのないクリアな音で、ディティールの再現性が抜きん出ています。
純ベリリウム製ダイナミック型ドライバーの FIIO FD7 と比較しても、ディティールの再現性という点では上回っており、部分的にはまるでBAドライバーを思わせる部分もありつつ、当然ながら「BAドライバーっぽさ」はありません。まさに未体験の音です。

しばらく聴いていると、従来のダイナミック型ドライバー機に戻れなくなりそうです

明るく非常に精緻な中高音域

周波数レンジは非常に広大で、20Hz以下のサブベース(超低音)から超高音域まで一貫して歪みを感じない精緻なトーンで鳴り、人間の聴覚感度が最も高くなる中高音域にやや明るく賑やかさのあるキャラクターを感じつつ、音の濁りや癖がほぼ全くないので、どのようなタイプの音源でも安心して聴ける印象です。

ドライかウェットか?で言うと、若干ドライ寄りにも感じつつ、ウェットな音の表現もそのニュアンスをしっかり再現するので、限りなくニュートラルに近いドライ系といったところでしょうか。これも今までにあまり経験のない質感です。

かといって、モニター機のようにディティールが強調されることはなく非常にナチュラルに聴こえるので、精緻で美しい美術品を鑑賞しているかのような感覚です。

空間表現

空間表現(soundstage)はかなり広く、左右上下奥行き方向ともに各音源毎に意図および想定される広さを再現できている印象で、宇宙空間のような広大な空間表現を持つ曲はその広大さを、比較的小さな部屋のような空間表現を持つ曲はその空間の大きさなどがわかりやすく感じます。
とりわけ、上下方向の音像定位が他の機種と比べて非常にわかりやすい印象があります。

音像定位がプラナーマグネティック型ドライバー機のように、方向や距離、大きさともに非常に正確に再現されるのも印象的で、録音の優れた音源では、ボーカルの距離や位置の他、アンサンブルやオーケストラなどの個々の楽器の位置や距離もかなりハッキリわかるレベルです。

尚、J-Pop など日本国内で制作されるの楽曲の多くでは、奥行き感のない平面的なミックスが多用される傾向があるため、立体感よりも音の緻密さが正確に再現されるのを感じられます。見せかけでない真の意味での「高解像度な音」と言えるでしょう。

KSHMR - The World We Left Behind (feat. KARRA)
空間表現のチェックの個人的な定番曲となっているこの曲ですが、広大な宇宙空間のような広さを感じさせ、SIVGA Que UTG では、特に上下方向の広がりが格別です。

低音域〜サブベース

この方式のドライバーで一体どこまでのサブベース域を鳴らせるのか、非常に関心がありましたが、20Hz以下を「余裕を持って」鳴らせる能力があります。
そして、20Hz付近のサブベース(超低音)から100Hz付近の高めの低音域まで、聴感上のリニア感に優れており、キックが 40Hz〜60Hz の海外の音源は歪み感の非常に少ないサブベースをクリアなまま存分に味わえ、キックが 90Hz〜100Hz 止まりになっていることが多い J-Pop 系の曲は、「まあそうなるよね」という順当な結果に。それでも、全体域にわたって解像度が緻密なまでに高いので、量より質の高さを非常に感じます。

むしろ、プラナーマグネティック型ドライバーの方が、人間の可聴下限に迫るサブベースの再現性では苦戦している印象が個人的にはあったので、それを軽く難なく超えている感じがあります。

SIVGA Que UTG に採用された UTG 振動板ドライバーは、中央部は平面型の化学強化超薄板ガラス、エッジ部はPU樹脂の複合素材ですが、ベース機の SIVGA Que では低音〜サブベース域のキャラクターが中〜高音域と異なりソフトに変わってしまっていた所、中〜高音域と共通した精緻なトーンで、「UTG」素材の特性がサブベース域でも発揮されているのでは?とも思えます。

Nora En Pure - Enchantment
この曲も個人的な試聴の定番曲ですが、イントロ部分の超低音(サブベース)の轟く音と超高音の鳥の鳴き声のような音が、SIVGA Que UTG それぞれディティールの質感を持って聴こえます。また、その後のチェロの音が特に目立った強調なく自然かつ精細な表現で聴こえ、素性の良さが伺えます。

中音域

中音域、特に中高音域はこのガラス振動板の「キャラクター」が出ているのかな?と思わせるような、明るく煌びやかな印象があります。それでも音の分離が非常に優れているので、「ボリュームを上げてもうるさく感じない」という、超低歪なHi-FI オーディオシステムで感じるような特性に似た感覚があります。

ボーカルはクッキリハッキリとしつつ、通常はディティールが隠れ気味になるところ、ディティールが埋もれずにテクスチャー(キメ)を感じられるような音で、細かなニュアンスを、この価格帯の1DDの機種では聴いたことのないレベルで再現してしまいます。

この機種では、おそらく中高音域のこの特性をそのまま出しているのでは?とも想像されるので、このUTG振動板は今後の更なるチューニング次第で計り知れないポテンシャルを持っていそうに思えます。

Krewella - Alive (Acoustic) [Official Video]
YouTube 上にしかリリースされていないこのバージョン、YouTube であっても SIVGA Que UTG で聴くと、ボーカルや伴奏のニュアンスがこれまでなく微妙な部分まで感じられます。

高音域

中高音域からつながる高音域は、超高音域に至るまで真の解像度の全てをさらけだすような、自然さを持っています。そのためか倍音表現が非常に豊かで、音の質感描写が非常に優れている印象です。

特に女性ボーカルの高音部が非常に美しく精緻に再現され、おそらくUTG振動板の性能が最も発揮される中高音域の出力が高めな印象のため、男性ボーカルよりは女性ボーカルに向いているように感じます。

高音域の「歯擦音の刺さり」は自分の場合はありませんでしたが、個人差が大きい部分なので(*)、もし刺さりが生じる場合は、長さの異なるイヤーピースを試すことで、回避できるかもしれません。

*:個人ごとに異なる「外耳道の長さ」によって「共鳴」する周波数が異なるため、「刺さり」が生じる場合は、イヤーピース等で「ドライバーから鼓膜までの距離」を変えることによって共鳴周波数をずらし、刺さりを回避できる可能性があります。

Nora En Pure - Wetlands (Official Music Video)
フルート、ハープ、ピアノと倍音による高音域の微妙なニュアンスが感じられる曲。全体域の歪み感が大幅に低くかつ、「硬さ」がないために、しっとりと湿ったような質感表現も綺麗に表現できる点が、従来の振動板素材ではあまりなかった点で、BAドライバーのような繊細さを併せ持つフルレンジダイナミック型ドライバーの自然さを感じられます。

総評

正直なところ、この機種はこの価格でリリースして大丈夫なんだろうか?と思うほど、コストパフォーマンスに優れる機種に感じます。
この驚異的な性能をもつ「UTG振動板」が切り拓いたダイナミック型ドライバーの新境地を体験しておかない手はありません。それ以前に普通によい機種です。

イヤホン/IEM のドライバー(トランスデューサー) の方式や技術は、各メーカーが長年工夫や改良を重ねてきている分野でもありますが、化学強化専用超薄板ガラス「Dinorex UTG®」を振動板に採用した平面型ダイナミックドライバーは、「今までの業界の苦労はなんだったんだろう?」と思ってしまうほどに、素の特性がよすぎる気がします。

ディティールの再現能力というミクロな面で見ても、マルチBA機に肉薄しつつ、かつマルチBA機っぽさが全くない「無垢なディティール表現」を可能にした印象があり、当然クロスオーバーの心配は無用。ダイナミック型ドライバーの1つのブレイクスルーとなる技術であることは間違いないと思います。

SIVGA Que UTG の表現能力は今までにないレベルのものであることは疑いありませが、例えば比較した純ベリリウムドライバー機 FIIO FD7 などと比べると、トータルでの音の「バランス」という点では、やはり価格なりの部分はあります。

しかしその分、このドライバーの特性をさらに引き出して設計された機種をぜひ聴いてみたいと思わせ、今後より上位機や高級機にも採用されてしかるべき技術のような気もします。

音源の持つ音を余すところなく心地よく聴き浸りたい方に、SIVGA Que UTGは個人的にオススメです。

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