Sponsored Reviewこのレビューは、HiFiGo 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
IEM/有線イヤホン市場は、現在も特に中国を中心に活況で、まだまだ新ブランドが登場したり、新機種も途切れることなく続々とリリースされています。
ここ数年は、日本円で1万円未満の低価格帯機の音質性能向上が非常に目覚ましい他、特にドライバーの方式や機構に新方式を採用したり、独自の技術で高性能化を図ったりして全体の品質が向上している他、ユーザーが音質をカスタマイズしやすい機構を搭載したり、様々な音楽を聴くユーザーのニーズに応えるべく、独自のコンセプトや技術を打ち出した機種が多く登場しています。
そんな中今回紹介するのは、2019年に創業した中国のメーカーによる「CVJ」ブランドの「Freedom/自由」という機種。
この機種、手元の様々な環境で試聴し評価していましたが、どうもハイパワーで高性能な「ポータブルDAP」専用機よりも、スマホやパソコンにUSB接続する「ドングルDAC」を使った方が真価を発揮するかも?というイマドキのトレンドをおさえたような機種のように感じられます。さらに、精悍な見た目と装着感の良さ、価格帯を超えた充実の機能・性能・付属品も相まって、なかなかオススメできそうな機種です。
CVJ ブランドから放たれた、機能・音質・付属品・価格すべて充実の機種「Freedom」
Image credit: CVJ
今回紹介するのは、2019年4月に中国・深圳近くで創業した「东莞市九弦声学科技有限公司」の「CVJ」ブランドから、2023年7月にリリースされた「Freedom/自由」という機種。価格は $79。現時点(2023年8月末)では、日本の Amazon で 1万1千円ちょっと で販売されています。
- 东莞市九弦声学科技有限公司网站_阿里巴巴旺铺 (CVJ Hi-Fi 公式サイト)
- CVJ Freedom自由 圈铁混合高音质监听耳机入耳式有线发烧hifi耳塞 (CVJ Freedom 製品ページ)
HiFiGo の商品ページ
CVJ Freedom の主な技術的特徴
Image credit: CVJ
- 1D(低域) + 2BA(中音域〜高音域) + 2BA(高音域) のハイブリッドドライバー構成
各BAドライバーはCVJカスタム品 - チューニングスイッチによるBAドライバーの1BA〜4BAのON/OFF切替
- Nanophase Ceramics (ナノ相セラミックス) 振動板採用のダイナミック型ドライバー
Nanophase ceramics とは
高硬度、高破壊靭性、高延性といった、通常のセラミックスとは異なる機械的特性を示す、ナノ相材料 (粒径が100ナノメートル以下) のセラミックス。医療分野などでポリマーに代わる体内への薬物輸送治療や、人工骨置換の材料としても注目されている。
DIPスイッチによる2基×2のBAドライバーのON/OFF切替機構
CVJ ブランドの公式サイトによると、マルチBAドライバーのクロスオーバーネットワーク回路をDIPスイッチで切り替え、周波数バランス等をチューニングできる機種は、CVJ では「Freedom」に先行して 2023年4月にリリースされた「TXS」で採用しているのを皮切りに、この先も同様の技術を使用した機種が予定されているようで、そこにユーザーによるチューニングの可能性を見出しているようです。
Image credit: CVJ
個人的にはユニバーサルタイプのマルチドライバーIEMで、各帯域のドライバーのクロスオーバーネットワークをDIPスイッチで可変にした機種は、2017年に見た LZ(老忠) の「Big Dipper (北斗七星)」という機種でしたが、初期のDIPスイッチ搭載機は左右のイヤホンでスイッチの向きが上下反対だったり操作がわかりにくい機種もありましたが、CVJ「Freedom」では、そうした問題もなく容易に切替ができます。
ただ、DIPスイッチは汎用部品のため、初見ではスイッチに記載の表示が「?」なのは今も変わりありませんが(笑)
ちなみに、「ON」の隣に「KE」と印字されているのは、このDIPスイッチが、ハーフピッチの表面実装型DIPスイッチ「KE Series」のためだと思われます。
- Dual In Line Switch | Low Profile DIP Switch | CIT Relay and Switch
- Half Pitch DIP Switch with Recessed Actuator Option
パッケージと本体・付属品
CVJ Freeedom のパッケージは、162×120×58mm の程よいサイズ。下のHiFiGoの開封動画にもあるように、上段にイヤホン本体が収まっており、下段の引き出しトレイに付属品がぎっしりと入っています。
本体と付属品。
本体、ケーブルともビルドクオリティはなかなか高く高級感があり、交換式プラグや必要なものは全て揃っています。スマホのSIMカードスロット取り出し用ピンは、ドライバー切替スイッチを操作するためのツールとして付属しています。
尚、取扱説明書はこの機種専用ではなく一般的な内容のもので、ドライバー切替スイッチについての解説は、外箱のスリーブの裏側にのみ記載されています。WebサイトやAmazonやHiFiGoの商品ページにも、スイッチの解説が記載された画像があるので、パッケージをしまったり万一なくしても設定に困ることはないでしょう。
HiFiGo による開封動画。
本体/ケーブル
CVJ Freedom の本体は、フェイスプレート部がアルミ合金の立体造形で、シェル部分は樹脂製。マット地のアルミ素材の造形が、シンプルながら光の角度で表情を変えクールな印象です。今回は「グリーン」のモデルですが、おそらく「ブラック」のモデルではより一層精悍さが増すのではと思います。デザイナーが良い仕事をしています。
付属のOFCケーブルは、非常に堅牢性が高そうで丈夫なものが採用されています。表面被覆材もやや厚手の印象で、シンプルな編み方で絡まりにくく取り回しはかなり良好です。
2pin ⌀0.75mm 端子のケーブル
CVJ の機種の特徴なのかも知れませんが、イヤホン側に qdc タイプの 2pin 端子を採用しているものの、ピンの径が通常の ⌀0.78mm ではなく ⌀0.75mm のため、他のケーブルに交換したい場合は注意が必要です。
樹脂の嵌合部はほぼ qdc と寸法的にも互換性がありそうな形状のため (奥行きはちょっとちがう)、誤って qdc 用のケーブルを挿してしまうと、本体側の 2pin レセプタクルが広がってしまい、レセプタクル内部のピン固定用スプリングもユルユルになる可能性があります。お勧めしません。
参考までに、
id_Chironuko3:detail さんによるとても有用な調査記事を見ると、KZ や CCA などの一部の機種で ⌀0.75mm ピンのケーブルが採用されているようなので、そうした機種向けのケーブルなら利用できるかも知れません。(個人的にはどちらも持っていないのでわかりませんw)
ケーブルのプラグ部は 2.5mm / 3.5mm / 4.4mm 交換式!
最近の他のメーカーのトレンドには詳しくありませんが、$79 の価格帯では珍しいと思ったのが、標準の付属ケーブルのプラグが 2.5mm / 3.5mm / 4.4mm 交換式で、3種類のプラグが付属するという点。4.4mm バランス接続を常用されている方には非常にうれしい仕様ではと思います。
方式は単純な差込式で、ケーブル側内部の「溝」とプラグ側の「白い点」を合わせて差し込みます。尚、標準で装着されている 3.5mm プラグが非常にかたく嵌合しているため、左右に引っ張って取り外す際は、布でつまむ等指をケガしないように注意しましょう。
どのプラグも差し込んだ後は取り外すのに苦労するほど強固に嵌合するので、使用中にすぐ外れてしまうといった心配はないでしょう。
ちなみに、上の写真で 4.4mm のプラグ部がやや傾いているように見えますが…この個体、実際少し斜めに傾いてます(笑) プラグの途中で曲がっているわけではないので、プレイヤーに挿す分には実用上問題ありませんが、プレイヤーに挿すと斜めに挿さっているように見えます(笑
それ以外は本体、付属品、パケージ含めこれといった気になる点は一切見当たらないので、品質管理を頑張ってもらいましょう。
装着感
CVJ Freedom のシェルは形状は qdc などに近く、耳甲介のくぼみへの固定用の張り出しがあるため、装着感安定性および遮音性は非常に良好です。また、やや小ぶりなサイズのため、耳が小さめの方にも合いやすいと思います。ケーブルのタッチノイズは少なく、ほとんど気になりません。
また、シェル自体でしっかり耳に固定される形状のためか、イヤーピースの違いによる装着感や音の変化も少なめで、付属の標準イヤーピースでも充分に楽しめる印象です。
音の空間的表現や、長時間装着などでの快適さ等を求めて、他のイヤーピースを試してみるのもよいと思います。
個人的にオススメのコストパフォーマンスの高い万能イヤーピース
付属の収納ポーチが小さすぎ!
先に掲載した付属品の写真を見ていただければわかると思いますが、ブラウンの収納ポーチ、どう考えてもこの機種には小さすぎます。ケーブルをかなり小径で巻いて、やっと入るもののパツパツです(笑
持ち運び時の収納ポーチやケースを別途用意した方がよいでしょう。
試聴前の準備と試聴環境
箱出し直後にちょっと聴いてみた時点では、やや不思議な感覚。とりあえず深く考えずにバーンインを開始。
Burn-in (エージング)
バーンインはいつもと同様、DAPに入れてある「試聴用プレイリスト」をランダム再生し続ける方法で、今回は60h程実施。
最近試聴用プレイリストを一部更新したので、さらに多彩な音源になっています。
試聴用プレイリスト
- Spotify版: Audio Check Express - playlist by azalush | Spotify
- YouTube版: Audio Check Express - YouTube
Burn-in 無音化ボトル/時間管理アプリ
尚、Burn-in 終了後に気づきましたが、パッケージ内の付属マニュアルに Burn-in の実施方法が書いてありました。ただ、トーンジェネレーターアプリや、その設定を変えながら生成した音源を連続して再生できる環境を用意する必要がありそうで、一般ユーザーにはややハードルの高そうな方法でした。
試聴環境
今回試聴には、Astell&Kern KANN ALPHA および HiBy R5 Saber のほか、iPhone SE 2020 に USB DAC として
- HiBy FC6 (R-2R DAC)
- Cayin RU6 (R-2R DAC)
- Shanling UA3 (AK4493S)
- FiiO BTR5 (ES9218P)
等を接続したり、MacBook Pro 14"(2021) 上の Audirvana Origin Mac版 に上記 USB DAC を接続し、NASに保存してある「試聴用プレイリスト」のオリジナルデータを中心に各種音源でテストしました。
尚、ドングルDACを使用する際のUSB ケーブルには、各ドングルDACメーカー付属ケーブルより劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S および MFi07S(iPhone用) を使用しています。
CVJ Freedom 音質レビュー
全体的な印象
再生環境によって低域の再現性が意外な変化を…
当初、いつものように各 DAP での試聴を繰り返していました。その際に常につきまとった印象は、低音のレスポンスがどうも甘く締まりがよくないという点。普段は3.5mmシングルエンドのみ使用しているので、試しに 4.4mm バランス接続にすると「若干」改善されるものの、通常期待されるシングルエンドでの低域のレスポンスにも満たないものでした。これは、HiBy R5 Saber でも AK KANN ALPHA でも同じ結果。
しかし、iPhone にドングルDAC を接続して再生すると…途端に DAP 専用機では体験できなかった、レスポンスの良い締まりある低音が3.5mmシングルエンド接続で得られました。
もともとインピーダンスが低く感度が高めで、低出力な機器でも充分すぎるほど音量がとれるのですが、むしろ低出力の機器の特性にあわせた設計なのかも?と思わせるものでした。電気音響的にどういう現象なのかわかりませんが、これは今までに経験のない意外な結果でした。 もちろん、スマホの音声出力は若干メリハリが強めに出る傾向や可能性はありますが、それ以上の変化で驚きました。
振動板にあまり見慣れない素材「Nanophase Ceramics (ナノ相セラミックス)」を使用 (コーティング?) したダイナミックドライバーの特性なのかどうかわかりませんが、興味深い機種です。
時代やニーズと、この「CVJ Freedom」の $79 という価格帯からしても、「スマホ+ドングルDAC」の組み合わせにターゲットを合わせたチューニングや、低出力・低消費電力でも充分な音圧を得られる高感度設計は非常に理にかなっていると感じます。
全体的な音の傾向
暖色/寒色系の違いは、前述の低音域のレスポンスや再現性にも大きく左右されますが、高出力な DAP で聴くとやや暖色系、DAPと比べて低出力な スマホ+ドングルDAC で聴くと、基本はメリハリのあるニュートラル基調から若干暖色系の印象。ただし、チューニングスイッチで使用するBAドライバー数を増やして高音域を強調していくと高音域の解像度が高くなり寒色系の要素が入ってきます。
総じて、前述のような若干不思議な部分はあるものの、特に「ドングルDAC」や「Bluetoothレシーバー」を中心に使う方には、後述のチューニングスイッチ次第で多くの人の好みにマッチさせられそうな印象です。
チューニングスイッチによる変化は予想に反して意外?
前述のように、CVJ Freedom のドライバー構成は「1D(低域) + 2BA(中音域〜高音域) + 2BA(高音域)」です。
これをどのようにBAドライバー1基〜4基の4パターンに振り分けているのか、若干謎な部分はあります。
先ほどのメーカーの説明図を改めて見てみます。
Image credit: CVJ
4種類のチューニングモードは、実際の聴感上の推測を含めると次のような構成と内容が想像されます。
- 1DD+1BA (おそらく「中高域〜高域用 ×1」)
→ 高音域は控えめで落ち着いた雰囲気- 1DD+2BA (おそらく「中高域〜高域用 ×1」+「高域用 ×1 高出力」?)
→ 高音域が派手でキラキラ- 1DD+3BA (おそらく「中高域〜高域用 ×2」+「高域用 ×1 低出力」??)
→ ほぼ聴感上フラットに近いニュートラルバランス- 1DD+4BA (おそらく「中高域〜高域用 ×2」+「高域用 ×2」)
→ 2BA モードをさらにリッチで高解像度にした雰囲気
順に高音域のレベルが上がっていくなら「1DD+3BA」は「1DD+2BA」と同等レベルの高音域になってもおかしくなさそうですが、「1DD+3BA」は「1DD+2BA」よりも高音域は抑えめで、どうもそう単純な構成ではないようです。おそらく各モードでのインピーダンスや周波数特性等を測れば、クロスオーバーネットワークの構成を含めたより正確な推測はできそうですが、手持ちの環境的には今後の課題です。
個人的には「1DD+3BA」モードが聴感上一番フラットなバランスで、あらゆるジャンルをモニターライクに聴けて好みです。
空間表現
音場空間は、狭すぎず適度な立体感がありますが、無限に広がる感じではなくある程度の広さにおさまる感じですが、イヤホン/IEMとしては標準的か、やや広めの空間に感じます。
音像定位はシャープすぎず程よい感じで、ボーカルや楽器は遠すぎず近すぎずといった感じでしょうか。ミキシングの腕次第ですが、しっかり立体感をつけてミキシングされた音源では、距離を含めて立体的な空間もしっかり感じられます。
低音域〜サブベース
前述のように再生環境によってかなり再現性が変わり、高出力の DAP ではサブベースから低音域が甘くなり、比較的低出力のドングルDACでは、低音域の締まりやレスポンスがよくなります。この変化は特にサブベース域で顕著で、今や Electronic Pop が主流化した洋楽系やEDMなどではかなり気になる部分です。
また、サブベースは30Hz以下がかなり抑えられており、パイプオルガンや海外の EDM、Electronic Pop などでは物足りなさを感じてしまいます。10Hz までとは言いませんが、30Hz〜20Hz は EDM などでは多用される帯域のため、もう少ししっかり出て欲しいというのが個人的願望です(笑
中音域
中音域はほぼ不満なく、楽器やボーカルの基音なども価格に対しては十分すぎる質感で表現してくれます。録音品質の良い音源を聴くと、$79 のイヤホンで聴いていることを完全に忘れます。あらゆる楽器もボーカルも全く違和感なく自然に心地よく聴け、個人的には文句なしです。
高音域
聴感上フラットバランスに近い「1DD+3BA」モードでの評価になりますが、高音域から超高音域までなだらかに自然に伸びています。トーンジェネレーターアプリで試しても、上は 15kHz くらいまではなだらかに伸びている感じです。(超高音域の感度は個人差はありますが)
総評
今回、「CVJ」というブランド自体を知ったのも初めてで、2019年創業の新興メーカーということもあり、どんな製品なのかやや懐疑的でしたが、見事に裏切られました。
円安の今でも HiFiGo による海外からの Amazon 出品で1万円ちょっとの「A10000クラス」。このクラスの機種はデザインが混迷の様相を呈している昨今ですが、意外にも(失礼)スタイリッシュでクールなアルミの立体的造形には惚れました。さらに qdc にも似た、ホールド感のしっかりした3Dプリンターによるレジンシェルの形状も美しくかつ実用的で、ビルドクオリティも付属のケーブルの品質や扱いやすさも万全。
この価格帯の他の機種をあまり知らないだけに、光の角度で表情が変わるデザインも美しく、本体もケーブルも堅牢感があり、音質もこのクラスでは平均以上のレベルかつ好みに応じて可変式。それでいてこの価格。ちょっと驚異的な機種に感じました。
迷ったら買ってみて損はない機種だと思います。