Sponsored Reviewこのレビューは、HiFiGo 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
今回は中国・青島に拠点を置くIEMブランド「7Hz(七赫茲)」の2Way デュアル・ダイナミックドライバー機「Legato」のレビューです。
「7Hz」といえば、平面ドライバー機「Timeless」や、透明なフェイスプレートの「Eternal」という機種が話題になったりしていますが、2014年に創業した企業のようで、数年前には i77 や i88、i99 といった独特なシェル形状と名称の機種をリリースしていた他、現在では様々な価格帯の機種をリリースしているようです。
2Wayブックシェルフスピーカーのようなドライバー構成の「7Hz Legato」
「7Hz」ブランドの様々なドライバー構成の機種の中で、「Legato」は低域用(⌀12mm)と高域用(⌀6mm)、2基のダイナミック型ドライバーを搭載し、ちょうど2Wayブックシェルフスピーカーを、専用のクロスオーバーネットワーク回路を含めIEMの筐体の中に作り込んだような構造になっているのが興味を惹きます。
Image credit: 7Hz
複数基のダイナミックドライバーを搭載したIEMでは、同じ口径のドライバーを2基並列で搭載したり、同軸2Way構成のものはよく見かけますが、「7Hz Legato」は、このスピーカーのような構成のおもしろさに関心をもちました。
ちなみに「Legato (レガート)」という音楽用語は、過去に他のオーディオメーカーが機能名に使用していたりするので、音楽に詳しくなくても聞いたことがあるかもしれませんが、「結ばれた」「切れ目を感じさせないように、滑らかに奏する」といった意味です。
おそらく「2基のドライバーのクロスオーバーの滑らかなつながり」を表すものとして、機種名に選ばれたのではないでしょうか。
7Hz Legato のパッケージと開封
7Hz Legato のパッケージは、外形 15cm × 11cm × 5.5cm の外箱に収められています。
外箱は印刷精度が高く非常に美しく、裏側には内部構造解説図やスペック詳細、会社名と所在地まで記されており、なかなか好感が持てるパッケージングです。
外箱の中には、PVCレザー仕上げの立派なキャリングケースが収まっており、イヤホン本体にはケーブルとイヤーピースが装着された、すぐに使える状態で収められています。
この構造のキャリングケースは最近 AliExpress などでも見かけるタイプで、少し前から気になっていたのですが、収納と使い勝手を両立したかなり立派なものでした。(通常のイヤホンケースと比べるとかなり大きめなのが難点ですが…)
内容物・付属品
キャリングケース内には、次のものが収められています。
- イヤホン本体+ケーブル
- イヤーピースセット
- 交換用ノズルフィルタ
- マニュアル
本体/ケーブル
本体のビルドクオリティは非常に高く、ケーブルの嵌合精度も抜群です。ケーブルはしなやかで取り回しがよくタッチノイズもほとんど気にならないレベルで、特に品質的に気になるような点は見当たりません。
あえていえば、ケーブルを本体から外した際、2pinケーブル端子のL/Rの刻印が非常に薄くわかりづらい点くらいでしょうか。円形マウントの2pin端子なので、取り外したり交換する前提の設計ではないとは思いますが。
イヤーピース (Eartips)
イヤーピースは、どこかで見たことがあるような、「AET07的なもの」と「AET08的なもの」が付属しています。開封時には「AET07の M- サイズのようなもの」が装着されています。(黒軸のもの)
通常はMサイズに相当するイヤーピースが標準的に装着されていることが多い中、Mサイズよりひと回り小さいサイズが標準装着されているのには、次の「装着感」と関係する理由がありそうです。
7Hz Legato の装着感とノズルの長さ
7Hz Legato の筐体は、比較的厚みがある上にノズルまで含めた長さが他のIEMより若干長めです。
このため、装着するとフィット感は良好ですが、「通常のイヤホンより耳の奥まで入る」感覚があり、その関係で標準装着のイヤーピースが通常のMサイズよりひと回り小さいものが装着されているのでは?とも考えられます。
ちなみに、手持ちでノズルが長いイヤホン/IEMと、ほぼ標準的な長さの「TinHiFi C2」を並べてみると、次のような感じになります。
装着した感覚としても「7Hz Legato」は「Astell&Kern × JH Audio Billie Jean」ほどではないにしても、「NF Audio NA1」に近い長さがある印象です。ただし、ノズルの角度と向きは標準的なので、多くの方にフィットしやすくそれほど気にならないのではないでしょうか。
試聴前の準備と試聴環境
箱出し直後にちょっと聴いてみた時点では、低音域がかなり盛り盛りの印象。しかし約100hのバーンインを経ると、低音域は大幅に落ち着き、比較的帯域バランスが整ってきました。
Burn-in (エージング)
バーンインはいつもと同様、DAPに入れてある「試聴用プレイリスト」をランダム再生し続ける方法で、今回は100h以上行いました (バーンインを行う時間は、スマホの実験用タイマーアプリで管理していますが、アプリは99h59m59sまでしか計れないので、今回は単純にバーンインしっぱなしなのを忘れていただけですw)。
試聴用プレイリスト
- Spotify版: Audio Check Express - playlist by azalush | Spotify
- YouTube版: Audio Check Express - YouTube
Burn-in 無音化ボトル/時間管理アプリ
試聴環境
今回試聴には、Astell&Kern KANN ALPHA のほか、先日旧国内代理店のアウトレット品で格安で手に入れた HiBy R5 Saber、iPhone SE 2020 に USB DAC として
- HiBy FC6 (R-2R DAC)
- Cayin RU6 (R-2R DAC)
- FiiO BTR5 (ES9218P)
等を接続したり、MacBook Pro 14"(2020) 上の Audirvana Origin Mac版 に上記 USB DAC を接続し、NASに保存してある「試聴用プレイリスト」のマスターを中心に各種音源でテストしました。
尚、ドングルDACを使用する際のUSB ケーブルには、各ドングルDACメーカー付属ケーブルより劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S および MFi07S(iPhone用) を使用しています。
https://s.click.aliexpress.com/e/_DFqGBNr https://s.click.aliexpress.com/e/_DmMWI3J
(USB 2.0の480MHzの信号は、20kHz程度のアナログオーディオ信号と桁違いに高周波なので、電源ラインと信号ラインの分離+シールド構造が効果大。アナログケーブル的アプローチは高価なケーブルでも効果なし)
7Hz Legato 音質レビュー
全体的な印象
全体的な周波数バランスの傾向として、やはり低音域がやや多めで、高音域はやや抑えめのバランスに感じます。 トーンジェネレーターアプリを使用した自分の聴覚では、60Hz〜80Hz にかなり大きな山があるほか、3.2kHz前後、5.6kHz前後、8.9kHz前後、12kHz前後にピークがあるように感じました。全体では 60Hz〜3kHz 付近が「聴感上」突出していると感じます。
トーンジェネレーターが出力する音圧や、イヤホン/ヘッドホンの出力音圧を計測した周波数特性グラフ等は「物理量として一定」の入力のため、等ラウドネス曲線やハーマンターゲットカーブなど聴覚上の特性を考慮すると、やはり 60Hz〜200Hz 付近が強めにチューニングされているように感じます。人間の聴覚は個人差も大きいので、参考までに。
個人的に特に期待していた 10Hz〜40Hz 付近のサブベースは、出るには出ているものの、それより上の低音域の方が強すぎて目立ってしまい、サブベースを多用するEDMなどでは違和感を感じます。
2Wayドライバーを搭載してはいるものの、おそらく世の中でメジャーなトラディショナルなバンド系音楽の使用帯域に特化している傾向があるのか、 Rock や J-Pop、Classical、Techno などのジャンルを主に聴く方にとっては、問題ないのかもしれません。
尚、2Wayドライバーによる帯域の分割により、低音域、高音域ともに歪み感の少ないクリアな音質に感じます。ただ、低音域によるマスキングのためなのかどうか、解像度はそれほど高くない印象で、滑らかさがある暖色系の音色に感じます。
空間表現
音の空間はそれほど広くはなく、どちらかといえば狭いタイプです。イヤーピースによっても若干変わりますが、広大な無限の空間に広がる音源も、学校の体育館や大講義室程度の広さで鳴っているように感じてしまいます。ボーカルや楽器なども比較的近い距離に音像定位する印象があり、そうした点でもやはり「7Hz Legato」は、Rock や Pops に最適化したコンセプトでの音響設計なのでは?と思えます。
低音域〜サブベース
パイプオルガンやEDMの20Hz未満のサブベースもちゃんと聴こえますが、60Hz〜80Hz の低音域が強すぎて、EDMやパイプオルガンの曲ではバランスが崩れてしまいます。
それだけでなく、現代の海外の Electronic Pop では、キックは 40Hz 前後が標準的なため、それより高い周波数の低域が強く出てしまうため、曲によってはチグハグな音になりがちです。7Hz の他の機種を聴いたことがないのでわかりませんが、設計上のリファレンス音源は、往年の「古き良き時代の Rock や Pop、Classical」がメインなのかもしれません。
尚、自分は J-Pop などトラディショナルなバンド編成のアーティスや曲はほぼ全く聴かないので、それ以上のことはわかりません(笑
[参考] イマドキの洋楽POPSとJ-POP/邦ロックの低音(キック)の周波数はかなり違うという話。#低音 #重低音 #超低音 #サブベース
— Azalush “森あざらし” (@align_centre) July 19, 2020
洋楽POPSの例(左):
Avril Lavigne - We Are Warriorshttps://t.co/B7wzin7q4x
→約40Hz付近
J-POPの例(右):
ReoNa - ANIMAhttps://t.co/yq119V5UUI
→約80Hz付近? pic.twitter.com/kA1kWZDSvF
中音域
「7Hz Legato」で最も好印象なのは、中音域の楽器やボーカルの再現性です。
クロスオーバー周波数がどの辺りなのかはわかりませんが、低域のやや極端な特性からして、1DD機なら中音域がこもりがちになりそうなところ、こもり感もあまりなく個々の楽器の音やボーカルがクッキリ聴こえます。
ただ、どうも海外のアコースティックなボーカル曲になると、楽器とボーカルのバランスが不自然になる曲がいくつもあり、クロスオーバーやチューニングにやや微妙な点も感じます。
高音域
高音域はおしなべて控えめで、控えめすぎると言っていいほどに感じます。その結果、中低音域がより強調されて聴こえてしまうため、帯域バランスが崩れてもったいないと思う点です。
この辺りの曲は高音域のレスポンスチェックによく使いますが、現代的な曲はあまり考慮していないチューニングなのかもしれません。
総評
「7Hz Legato」という意気込んだ機種名と、2Way ダイナミックドライバー構成という、チャレンジングな構成で若干期待もしていたものの、少なくとも試聴用プレイリストに含まれているような「自分がよく聴く音楽」では、あらゆる曲で音に違和感を感じてしまい、落ち着いて聴けない印象です。
これが、一般の音楽ファンのようにメジャーな音楽 (Rock / Pop) を中心に聴く方であれば、ひょっとしたら印象も大きく変わるのかもしれません。
「7Hz」の機種としては初めて聴いた機種で、同ブランドの他の機種の音を知らないだけにブランドとしての方向性もわからず、個人的にはなんとも言えない機種でした。