Sponsored Reviewこのレビューは、HiFiGo 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
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シングルBAドライバー搭載IEM/イヤホンの、表現力の限界に挑戦するような機種が AFUL から登場しました。
AFUL ブランドは、独自のネットワーク回路技術と3Dプリンターを用いた理想的な音響特性のチャンバーや音導管により、ドライバーの性能や組み合わせの効果を最大限に発揮させ、従来にない次元のサウンドを実現することを得意としているようで、Performer 8 を皮切りに好評を得ているのはご存知かと思います。
今回 AFUL から登場した “MagicOne” と名付けられたこの機種、ドライバーは AFUL カスタム仕様のBAドライバー1 基のみですが、マルチドライバー機のクロスオーバー回路に着想を得たチューニング回路 (SE-Math) を搭載し、BAドライバーのリアチャンバーとダンピングチューブ(?)構造を3Dプリンターで精緻に形成し、高域側の特性と低域側の特性をそれぞれ向上させるという、野心的な設計になっています。
シングルBAドライバー搭載IEM/イヤホン自体は、すでに様々な機種が登場していますが、BAドライバーの物理的特性上、中〜高音域を中心とした繊細なサウンド表現を得意とするものの、ダイナミック型ドライバーのように広い周波数帯をカバーするのは難しく、20Hz近いサブベースまでダイナミックドライバー機並に再現できるシングルBA機は、個人的には今の所「BRAINWAVZ B100」1機種しか知りません。
結論から言うと、「AFUL MagicOne」は近年の海外 Pops (非バンド系) で多用されている 40Hz〜50Hz 付近のキック/ベースをしっかり再現できる能力をもち、超高音域まで全周波数帯域にわたってバランスがよく、音のディティール表現もこの価格帯では他のシングルBA機と一線を画すなど、おおむね「看板に偽りなし」という印象です。
AFUL MagicOne の製品コンセプト
AFUL MagicOne は、製品紹介からも伺えるように通常の1BAドライバー機とは異なり、AFUL独自のアプローチでドライバーの電気的な補正と音響特性の最適化を図り、高精度の3Dプリンター技術により、音導管およびチャンバーやリアベントにアコースティック効果をもつよう計算された複雑な構造を持たせ、ドライバー自体の性能以上の特性を引き出しているのが大きな特徴のようです。
Image credit: AFUL Audio
構成
AFUL独自の高音域のドライバー動作最適化技術 “SE-Math”
「SE-Math」は、AFUL がコア技術としてブランド創設以来研究開発を進めている技術のようで、高音域におけるドライバーの特性を音楽信号により忠実になるよう補正する電子回路(RLCネットワーク)技術と、高精度の3Dプリンターで緻密に設計されたアコースティック構造により、ドライバーを音楽信号により忠実に最適な駆動をさせ、高音域の特性をよりクリアで鮮明になるよう向上させているようです。
TWSイヤホンの普及で、DSPなどデジタル処理で音響特性を最適にコントロールする技術が進化し続けていますが、電源を持たない有線イヤホン/IEMで、単に特性の優れたドライバーを採用するだけでなく、その物理的性能をさらに高める技術というのはかなり興味深く、3Dプリンター成形と併せて音響技術の進展を感じさせます。
B&W “Nautilus” に着想を得た、低音域の特性を高める3Dプリンター成形のリアダンピング?技術
Image credit: AFUL Audio, Wikipedia
AFUL の解説では名言はされていませんが、オーディオの文脈で “Nautilus” と言えば、B&W が開発し最新の 800 シリーズにも受け継がれている “Nautilus” の技術が思い浮かびます。
これもスピーカーの背面をウールを詰めたダンピングチューブ状にして自然に減衰させ、不要な共振等を排除する技術で、ウーファーは直管にすると3mにもなるため、「Nautilus (ノーチラス)」の名前の由来でもある「オウムガイ(Nautilus)」の殻のように渦巻き状にして同様の効果を省スペースで実現したもので、確かに AFUL MagicOne に採用されている音響構造にも似ています。
Image credit: B&W
こうしたラウドスピーカーの技術をヒントに、IEMに応用できる技術を編み出した AFUL のR&Dチームは、IEMに限らずオーディオ全般とその技術に関してかなり幅広い知見や技術を持っているように感じられます。
例えば、Shure SE846 では、ドライバーの前面に複雑なパターンで穴の開いた薄い金属板を積層することで、物理的な音響ローパスフィルターを構成していますが、現在では3Dプリンターを活用することで同様の技術をより手軽でより自由度の高い設計で実現でき、設計の自由度が飛躍的に高まっているいると言えるでしょう。
3Dプリンターを用いた複雑な音導管を構成し、音響フィルター効果を持たせたり位相コントロールなどを行なう機種は年々増えており、FiiO FA9 などもその一つの例として挙げられますが、AFUL はブランド自体が創立当初からそうした3Dプリンターを活用した設計を一つのキー技術としており、新世代のIEMブランドとも言えそうです。
AFUL MagicOne 基本スペック
Image credit: AFUL Audio
主要諸元
感度 | 103dB/mW |
周波数レンジ | 5Hz-35kHz |
インピーダンス | 38Ω |
遮音性 | 26dB |
プラグ | 3.5mm または 4.4mm |
ケーブル長 | 1.2m |
パッケージと内容・付属品
15.1cm × 12cm × 5.5cm のコンパクトなパッケージです。
内容・付属品
このフェイスプレートのデザインは、2021年に某Tブランドの「PRISM」登場以降、中国の様々なIEMブランドがこぞって似たデザインの機種をリリースするなど、一つの定番となった感があります。 実際見た目にも美しく、ロゴや機種名も美しくデザインできるため、IEMに適した優れたデザインパターンと思います。
パッケージ内には、イヤホン本体とケーブルのほか、イヤーピースが色違いの2種類、日本語も併記された取扱説明書、コンパクトな金属ケースが入っており、必要にして充分な内容です。
最初は2pinケーブルの本体側コネクタが若干挿しにくいですが、注意深くまっすぐ一度挿せば以降は抜き差ししやすくなります。
装着感
他の1BA IEMとの比較
試聴前の準備と試聴環境
Burn-in (エージング)
バーンインはいつもと同様、DAPに入れてある「試聴用プレイリスト」をランダム再生し続ける方法で、今回は 85h 程実施。ただ、その後の試聴で若干傾向が変わる印象もあったので、比較的時間をかけて変化しているタイプかもしれません。
試聴用プレイリスト
- Spotify版: Audio Check Express - playlist by azalush | Spotify
- YouTube版: Audio Check Express - YouTube
試聴環境
今回提供いただいた試聴機は「4.4mmプラグ」タイプだったため、試聴には、Astell&Kern KANN ALPHA および HiBy R5 Saber のほか、iPhone 15 に USB DAC として
- Cayin RU6 (R-2R DAC)
- Astell&Kern AK HC2
等を接続したり、MacBook Pro 14"(2021) 上の Audirvana Origin Mac版 に上記 USB DAC を接続し、NAS上の音楽データの他、YouTube や Spotify 等の各種音源でテストしました。
尚、ドングルDACを使用する際は、USBケーブルとして各ドングルDACメーカー付属品より劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S を使用しています。
また、イヤーピース(Eartips)は標準添付のLサイズに加え、BAドライバー機と非常に相性が良いと感じる Whizzer EASYTIPS ET100AB も使用して評価しています。(国内では伊藤屋国際さんが代理店として取り扱っており、現在2色展開ですが、AliExpress では新色のグリーンとレッドも販売されています)
AFUL MagicOne の音質
💡注意イヤホン/ヘッドホンの音の感想は、物理・生理的な違いや知覚や認知特性により、感じ方の個人差が非常に大きいことに充分留意ください。IEC標準に準拠して測定された周波数特性グラフなども、もともとあくまで規格上「標準耳」を仮定した上での参考値で、全ての人が測定グラフ通りに聴こえるわけではありません。
全体的な印象
AFUL MagicOne は、シングルBA機という先入観を見事に裏切ってくれる、マルチBA機かと思ってしまうような繊細なディティールと音のテクスチャーを感じられる中高音域。さらに、マルチBA機でも出ない機種が多くあるサブベース(超低音)域の再現能力を感じます。全周波数帯域にわたって聴感上突出した帯域がなく、8kHz付近も誇張されず、サブベース域を除いてかなりフラットに近い印象です。
全体的に明るめでありながら落ち着きもあり、1BA機かどうかを気にすることなくあらゆる音源ジャンルの音楽を楽しめ、1BA機かつこの価格帯でこれだけの再現能力や表現力を持つ、広い周波数帯をカバーできる機種には個人的には出会った試しがなく、「この音を1BAで?!」というのは素直に驚きました。
空間表現と音の質感
AFUL MagicOne の空間表現/サウンドステージは、広すぎず狭すぎずで Pops 系に向いていそうな印象があります。
個人的に気になったのは、各音像毎の大きさや定位のまとまり感。空間上に定位する音像の大きさや輪郭、奥行きを含めた位置などが若干「ゆる目」に感じられます。バンド編成の音楽 (J-Pop, J-Rock) など音像の大きさや距離などのシャープな立体的定位をあまり要求しないタイプの音源ジャンルではそれほど違和感を感じないかもしれませんが、音像のセパレーションをくっきりさせる海外の Electronic Pops や EDM などクラブミュージック系の音楽のほか、オーケストラ編成の音楽などでは、音像定位や立体感などがなんとなく物足りなく感じました。先ほど「Pops系に向いていそう」と書いたのはそのためです。
ちなみに、バランス出力で聴いてもシングルエンド出力で聴いても、この傾向はほぼ変わらない印象です。(バランス出力の効果は音源品質が最大の音質変化要因にもなっており、個人的にバランス出力で音質が劇的に改善するタイプの音楽はほとんど聴かないので、バランス出力で音質が大きく変化しやすい一部のメジャーな J-Pop 音源などではどうなるかはわかりません)
低音域〜サブベース
1BAフルレンジドライバー機なので過度な期待は禁物ですが、海外の Pops でも多用されているサブベース域の 40Hz〜50Hz 付近のキック/ベースをしっかり再現できる能力をもち、1BA機でこのクオリティで再現できるのは驚きです。
再生下限周波数や量感は、低域専用BAドライバーを搭載したマルチBA機やダイナミックドライバー機には及ばないものの、バンド系の音楽やアジア系のポピュラー音楽ではほぼ不満を感じないレベルではないかと思います。
ちなみに、トーンジェネレーターアプリで探ってみると、40Hz付近までは比較的出ているのがわかりますが、そこから下は急に落ちるイメージで、海外の Electronic Pops やEDMなどクラブミュージック系では、サブベース域で周波数を下げながらビートを刻むようなベース音が途中で消えるような感覚はあります。クラブミュージックや Electronic Pop のサブベースを堪能するには物足りないのは、通常のフルレンジBAドライバーの限界なのでしょう。
低域の出方のイメージとして近いのは、小型ブックシェルフ型2Wayスピーカーのような感じでしょうか。それもバスレフ型ではなく密閉型に近い感覚。AFUL MagicOne の機構を観察すると、BAドライバーのリアポートに据置スピーカーのようにエンクロージャーを設け、そこからダンピングチューブ(?)を長く伸ばした、B&W の “Nautilus” のトポロジーに近い構造になっているので、BAドライバーが出しうる低域を極力自然に伸ばす設計のおかげなのではと想像します。3Dプリンター技術を核とする AFUL のチャレンジングな技術でこの構造を低価格で実現できているのは驚きです。
中音域
AFUL MagicOne の中音域は、シングルBAドライバーらしく楽器やボーカルの「張り」もよく、力強く芯のある音を鳴らしてくれる印象があります。シングルBAドライバー機の多くは、中高音域に音の力強さが集中しがちな傾向があるように思いますが、MagicOne では高音域の繊細さも相まってか中音域が主張しすぎず、中音域から高音域まで聴感上フラットな表現力の安定さに力点をおいたチューニングに思えます。
気になる点としては、価格帯からすれば充分なクオリティなのですが、価格帯が倍ほどの同じく1BAの ORB CF-IEM などと比較すると、先にも触れたように音像のフォーカスがかなりゆるく感じる部分はあります。逆に、そのおかげで音の分離がよくない傾向がある J-Pop 系の音源でも、音の広がりを感じやすいかもしれません。中音域〜高音域の広い範囲での特性の影響だとは思いますが。
高音域
AFUL MagicOne の高音域は、周波数特性の面でも、解像度の高さの面でも、表現力の面でも、あらゆる面で非常にバランスがとれており素晴らしいと感じます。
カナル型イヤホンの宿命でもある8kHz前後に出やすいピークがほとんど抑えられており、その帯域から上のディティールが全く失われていないこともあってか、音の繊細なテクスチャー表現を感じることができ、シングルBA機ではここまでの高音域のテクスチャーやディティールを感じられる機種はそう滅多にないように思います。
もちろん 6kHz前後を中心とする「歯擦音の刺さり」も全く感じられず、そうした余計な心配をすることなく純粋に声や音の響きの美しさや余韻を余すところなく楽しめる印象です。正直なところ1BA機であることを忘れます。
おそらく AFUL が2019年の創業後から研究を重ね進化してきた「S&E-Math」テクノロジーが最大限発揮されている領域ではないかと思います。この AFUL 独自開発の「S&E-Math」テクノロジーは中国国内で数々の特許の取得しているほか、中国蘇州市から “Leading Talent Award” を受賞し資金を獲得しているのも頷けます。
他の内外のブランドで時々見かける「ちょっと工夫してみたらたまたま効果あったので新技術として宣伝」という感じではなく、技術的バックボーンと原理的可能性から実現を目指したと思われる方向性は、R&Dとして技術産業的にも真っ当なプロセスで、AFUL の R&D の高さが伺えると同時に、どういった経歴を持つメンバーが集まってできたブランドなのか、大変興味を惹かれます。
総評
初めてその仕様を見た時、シングルBA機を限界チューニングしたような印象を持ちましたが、その予想を裏切らない、聴いているうちに1BAドライバー機であることを良い意味で忘れてしまうような製品でした。
オーディオファン的な視点では、どうしても先に構成やスペックに目が行きがちですが、「音楽を楽しむ」という目的を重視するなら、ドライバー構成がどうであるかは参考情報になるかもしれませんが、その製品がどういったコンセプトでどういった性能や使いやすさを実現しているか?やデザインが好みで使ってみたいと思うかどうか?がより本質的なテーマにもなります。
そうした点で、AFUL MagicOne はトラディショナルなバンド構成の音楽 (Rock / Metal や J-Pop など) やオルタナティブ系ボーカル曲、クラシカルやジャズなどを楽しむ上でシンプルに過不足なく楽しめそうな選択肢になりそうです。
世界の音楽事情は国や地域毎に刻々と変化しており、あらゆる音楽にオールマイティに対応するには、同社のマルチドライバーの上位機種 Performer シリーズが適していると思いますが、サブベースが重要視されないジャンルをシンプルにバランスよくキレイな音で楽しみたいというニーズには、MagicOne は例えば初めての1BA機の選択肢としてもかなりおすすめできそうに思います。
デザインもシンプルで美しく、長時間の装着でも安定感も高く疲れにくく、遮音性も比較的高いので、移動時や雑音のある中で集中したい時などにもよい選択肢なのではないでしょうか。
AFUL MagicOne は、ドングルDACと組み合わせてスマホに接続しても充分な出力(音量)が得られるので、気軽に使えかつ上品さもあるデザインのシングルBA機として、他にあまりない独特のポジションとサウンドを提供してくれるのではと思います。