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THIEAUDIO Hype 2 レビュー 〜 クラブミュージックの超低音も最高に楽しめるほぼ完全無欠なIEM

THIEAUDIO Hype 2
Sponsored Review
このレビューは、Linsoul Audio 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
尚、商品の購入先リンクには各販売元が提供するアフィリエイト型収益化プログラムを利用している場合があります。

中国のオーディオ販売店 Linsoul Audio のブランドでもある、「THIEAUDIO」からはすでに多くの製品がリリースされていますが、どの機種も好評価という高いレベルの設計技術や製品のクオリティには感心します。

ここ最近、先日レビューした「AFUL」ブランドの「MagicOne」など、例えば3Dプリンター成形などの技術が成熟してきて、従来はほぼ不可能に近かったことをテクニカルに追求することが現実的かつ低コストで実現できるようになるなど、IEM / イヤホンの音響設計技術が低価格帯機も含め、妙に進展している気がします。同時に、そうした技術的な進展の流れに乗っていない、従来手法で開発し続けるブランドとの差がますます開いてきている気もします。

中国のブランドでは、Moondrop や Softears など老舗ブランドの他、ここ数年の FiiO なども音響技術面で飛躍的に向上している気がしますが、新興ブランドでありながら高い技術力と音響的アイディアを武器にした「THIEAUDIO」や「AFUL」などのブランドが、一気にその最前線に躍り出てきているようにも見えます。

ちなみに今回紹介する「THIEAUDIO」ブランドの製品は、中国と韓国の少数精鋭のエンジニアによって開発されているようです。

Image credit: THIEAUDIO

韓国といえばハイエンドオーディオメーカーが多いだけでなく、EDM他クラブミュージックが盛んな音楽文化のバックグランドも持つため、音響的な意味で音楽文化の似た中国や日本で開発されるブランドにはない、グローバルなあらゆるジャンルの音楽への適応性が高いイメージが個人的にはあります。

サブベース(超低音域)で真価を発揮する Hype 2 の衝撃的音響性能

そんな THIEAUDIO から登場した、従来の機種とは趣の異なるシリーズの「Hype 2」、外見は一見シックな装いでジェントルなイメージが想起され、実際、アコースティックな楽曲やRock/Pops系も非常に精緻でバランスのよい、表現力豊かなサウンドで楽しめる、聴いてすぐわかる程度に優秀な機種なのですが、グローバル価格 $299 のこの Hype 2 の他の機種にない真価は「サブベース(超低音域)」にありました。

特にその恩恵を受けるのが、サブベース域の音を多用する「海外の Electronic Pops や Club Music」。日本では「バンド系音楽」でのバスドラムやベースの音域を中心とした「重低音」という表現がありますが、「サブベース」はそれよりさらに低い周波数帯で、「バンド系ではない」海外の Pops などではバスドラムに代わるサブベースのキック/ビートに普通に使われている音域です。

人間の平均的な可聴下限周波数とされる 20Hz 近いこのサブベース域を、音源に収録された信号レベルに対応する音圧で「忠実に」再現でき、かつ低音域から高音域までバランスのとれたイヤホン/IEMは実は今までほとんどなく、そのサブベース域の超低音を全くボワつき感なく低歪みでクリアに「本来の音圧」で再現できるのが、この「THIEAUDIO Hype 2」です。これはグローバルであらゆるジャンルに通用する音で、この至高のチューニングを実現した THIEAUDIO の開発チームには Bravo! です。

⚠️ご注意
THIEAUDIO 製品は「Linsoul」および「ナイコム株式会社」が正規販売代理店で、Hype 2 の国内正規価格は ¥49,800 です。Amazon でそれ以外の海外出品者から異様に安く出品されている場合がありますのでご注意ください。

THIEAUDIO Hype 2 は、この価格帯では従来存在しなかったような音のクオリティで、特に海外の音楽を多く聴く方には、文句なしにおすすめです。弱点としては空間の広さ(サウンドステージ)がそれほど広くはない(狭くもない)ことくらいでしょうか。このレビュー記事のタイトルはちょっと盛ってますねw

Hype 2 の製品コンセプト

Hype 2 の「HYPE」は “Hybrid Performance” から生まれた造語のようで、卓越した技術と音質を兼ね備えた、THIEAUDIO の次世代IEMの新シリーズのようです。現在すでに「HYPEシリーズ」として、Hype 2 の上位機となる Hype 4、Hype 10 などがリリースまたは発表されています。

「Hi-Fiオーディオの世界に足を踏み入れて以来、私たちは多くのことを成し遂げ、新しいプロジェクトを立ち上げるたびに大きく成長してきました。発売のたびに、より良いサウンドのオーディオ・ソリューションを開発する方法や、新しいドライバー・タイプを開発し活用する方法を学んできました。私たちは、身につけた知識のすべてを新しいHYPEシリーズにまとめています。」

Credit: THIEAUDIO

THIEAUDIO Hype 2 の入念な設計と独自技術

「IMPACT²」:2基のダイナミックドライバーを「アイソバリック」構成にしたサブウーファー

THIEAUDIO Hype 2 の、20Hzのローエンドまで歪み感の少ない超低音域の再生を担っているのが、独自のサブウーファー技術「IMPACT² (Impact Squared: インパクト・スクウェアード)」です。

INPACT² (Impact Squared)
Image credit: THIEAUDIO

これは、Hi-Fi 据置オーディオのスピーカーや単体のサブウーファーでも使われる、同じ気室でつながった2基のドライバーを同相/等圧状態で駆動する「アイソバリック」構成の一種のようで、ダイアフラム(振動板)の振幅が最も大きくなるサブベース(超低音)域での歪みを低減すると同時に、方式によっては出力音圧を高める効果もあるようです。

アイソバリック構成の例:

Isobaric subwoofer (アイソバリック・サブウーファー)

Image credit: Audio Judgement

アイソバリック構成は IEM でも高級機を中心に以前から使われていますが、このクラスの機種に採用される例はそれほど多くないのではと思います。

超低域〜低域の歪みを減らす技術としては、他のブランドがよく謳い文句にしている、ダイアフラムにベリリウムなど硬度の高い特殊な素材を使用したりコーティングしたりする手法が1DD機や1DD搭載ハイブリッド機では広く用いられていますが、アイソバリック構成の「IMPACT²」では、最適な素材探求にコストをそれほどかけずとも、人間の最低可聴周波数とされる20Hzも余裕でクリアする「低歪みでクリアなワイドレンジな超低域〜低域再生」を容易に実現できる、という大きなアドバンテージがありそうです。

尚、Hype 2 で採用されたこの THIEAUDIO 独自の「IMPACT² (インパクト・スクウェアード)」技術は、Hype シリーズの上位機種「Hype 4」や「Hype 10」のみならず、「Monach MKIII」など、 THIEAUDIO の様々な新機種に採用が進んでいるようです。

2基の Sonion 製BAドライバーとのハイブリッド構成

THIEAUDIO Hype 2 は2機のダイナミックドライバーによるサブウーファーと、中音域から高音域・超高音域を担う2基のBAドライバーを採用した、ハイブリッドドライバー機です。

  • 超低音〜低音域:IMPACT² アイソバリック構成ダイナミック型ドライバー ×2
  • 低音〜中音域:Sonion P2356HF/4 BA型ドライバー ×1
  • 高音〜超高音域:Sonion E25ST001/D BA型ドライバー ×1
Image credit: Sonion

この2基のBAドライバーは Sonion 製の大手IEMメーカー製品でも実績あるドライバーの最新のモデルを採用しているようですが、当然ながら様々なモデルを試した結果、最終的にこの2種類のドライバーをそれぞれ選定しているようです。
特に超高音域を担うスーパーツイーター「E25ST001/D」は、EST型ドライバーのような高域性能を持ちながら、より滑らかでまとまりのある音色を持っているようです。

現代の音楽制作に通ずる「200Hz」を抑えたチューニング

THIEAUDIO のチューニングを特徴づけている点として、開発エンジニアの中に、おそらく音楽制作にも通じた方がいるのではないか?と思える点があります。周波数バランスのチューニングを音楽の音の特性に通じた「プロの音楽制作エンジニア」の視点で行っているように見えます。

Balanced Tuning of THIEAUDIO Hype2
THIEAUDIO Hype 2 SPL Frequency Curve
Image credit: THIEAUDIO

特に海外の Pops などをスペアナで見ていると大抵そうなっていますが、200Hz 付近が抑え気味になっています。これは音楽制作系メディアでも同様の解説を見かけますが、サブベース域のキックやベースと 200Hz 以上のボーカルや楽器の音を相互干渉や周波数マスキングしないように分離させ、それぞれの音がくっきりと立ち上がるようにする効果があるようです。

人間の聴覚特性「マスキング効果」の中でも「周波数マスキング」は低い周波数の音が高い周波数の音を、内耳の生理的構造上の特性によりマスキングする現象です。

Hype 2 のチューニングにおいては、そのほかにも音楽の躍動感や繊細なニュアンスを引き出すためか、各帯域に聴感上のピークが生じにくいよう、かなり綿密なチューニングを行っていることが伺えます。  

基本スペック

THIEAUDIO Hype 2 主要諸元

ドライバー Sonion E25(E25ST001/D) x1 + Sonion 2300(P2356HF/4) x1 + 10mm dynamic drivers x2
感度 108dB/Vrms@1KHz
インピーダンス 25Ω@1KHz
周波数レンジ 20Hz-40kHz
ノズル直径 6mm (Lip) / 5.4mm (Stem)

THIEAUDIO Hype 2 は感度が高く、インピーダンスも25Ωと程よく低めなので、再生機器の出力がそれほど要らず、スマホやドングルDACなどでも楽々鳴らせます。再生機器のバックグラインドノイズも手持ちの機器では全くありませんでした。

最近、感度の高い上に高品質な機種が増えてきているのも、再生機器の主流が従来のハイパワーなポータブルプレイヤー(DAP)から、小型のドングルDACなどに変化してきていることも影響しているのかもしれません。

パッケージと内容・付属品

THIEAUDIO Hype 2 のパッケージは 249mm × 167mm × 51mm で、B5サイズより一回り小さいくらいのサイズです。

内容・付属品

パッケージ内には次のものが入っています。必要最小限ながらプロフェッショナルユースも見据えたような、よく吟味された内容になっています。

  • Hype2 本体
  • 3.5mm ケーブル
    シンプルな右回り螺旋撚りで、丈夫で起伏がほぼないため取り回しがよく、タッチノイズも少ないケーブルです。
  • セミハードケース
    14cm × 10.5cm × 4cm の比較的大きめのサイズで、フタ側にはネット付。イヤホン本体とイヤーピースの他に、他のアクセサリーやドングルDAC、小型のプレイヤーなども一緒に収納できそうです。
    ケースには、カラビナなどをつけられるループもついているので、実用性が高そうです。
  • ケーブルストラップ
  • イヤーピース 2種類
    「シリコーンタイプ」のチップと「フォームタイプ」のチップの2種類が付属し、プロフェッショナルユースも見据えた選定になっているようにも見えます。
  • クリーニングクロス

装着感

Hype 2 の装着感は、THIEAUDIO の他のモデルと同様に非常に良好で、長時間装着していても疲れにくくほとんど違和感を感じません。

シェルの形状が qdc に似た後部に返しがあるタイプで、耳のくぼみにフィットして安定感・ホールド感があり、もちろん個人差はあると思いますが頭を激しく動かしてもズレません。イヤーピースも付属のシリコーンタイプのもので問題なく密閉感が得られましたが、この辺りは個人差も大きいので、うまくフィットしない場合は付属のフォームタイプやその他のイヤーピースを試してみるのもよいと思います。

付属のケーブルは、先に触れたようにやや太めで丈夫な感じで、固すぎず柔らかすぎずしなやかで絡まりにくく、スライダーで顔に沿うようにするとタッチノイズも比較的少なくなります。
IEMのケーブルは、編み方が細かいとケーブルの「実長」が長くなる上、起伏が多くなって絡まりやすくなるので、耐久性も含め比較的バランスのよい太さと撚り方で、実用性重視といった感じにも見えます。

試聴前の準備と試聴環境

Burn-in (エージング)

バーンインはいつもと同様、DAPに入れてある「試聴用プレイリスト」をランダム再生し続ける方法で 90h 程実施。アイソバリック構成のサブウーファーを搭載する機種なので、この試聴用プレイリストに含まれるサブベース(超低音)の効いた曲も功を奏しているかもしれません。

試聴用プレイリスト

試聴環境

今回試聴には、Astell&Kern KANN ALPHA および HiBy R5 Saber のほか、iPhone 15 に USB DAC および Bluetooth レシーバーとして

  • HiBy FC6 (R-2R DAC)
  • Cayin RU6 (R-2R DAC)
  • FiiO BTR5 (ES9218P)

等を接続したり、MacBook Pro 14"(2021) 上の Audirvana Origin Mac版 に上記 USB DAC を接続し、NAS上の音楽データの他、YouTube や Spotify 等の各種音源でテストしました。

尚、ドングルDACを使用する際は、USBケーブルとして各ドングルDACメーカー付属品より劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S を使用しています。

音質

💡注意
イヤホン/ヘッドホンの音の感想は、物理・生理的な違いや知覚や認知特性により、感じ方の個人差が非常に大きいことに充分留意ください。IEC標準に準拠して測定された周波数特性グラフなども、もともとあくまで規格上「標準耳」を仮定した上での参考値で、全ての人が測定グラフ通りに聴こえるわけではありません。

全体的な印象

THEAUDIO Hype 2 を聴いた印象は、超低音域から超高音域まで「超ワイドレンジ」で究極の「聴感上フラット」に感じました。ハイエンドオーディオの大型スピーカーでも再現が難しい 20Hz〜30Hz 付近のサブベース(超低音)がしっかり出て、かつ歪み感を感じないのが驚きです。THIEAUDIO の IEM をじっくり聴いたのは初めてでしたが、ちょっと今まで経験のないレベルの自然な音の出方です。

他のIEMで低音域がよく出る機種は、60Hz 付近の少し高めの低音域からいかにもブーストされた感じで、30Hz より下が急に消えるようなチューニングになっていることが多いのですが、Hype 2 ではそうした作為的なブースト感や 30Hz 以下が急に消えることがほぼなく、あらゆる音源がもつ周波数ごとの音圧レベルに忠実に鳴る感覚があります。

例えば、再生する音源が「等ラウドネス曲線」に代表される、人間の各周波数ごとの聴覚感度特性通りの音圧バランスで制作されていれば、音源が持つ本来の周波数バランスを忠実に再現した自然な鳴り方に感じます。

等ラウドネス曲線 (ISO 226:2003)

そのほか THEAUDIO Hype 2 では、中音域〜高音域、超高音域にも目立ったピークやクセ、刺さり等も感じず、過剰な派手さや解像度が高すぎることもなく「適正」で、音のディティールのテクスチャ表現も見事。スタジオのラージモニタースピーカー等で再生した周波数バランスにも近い「極めてニュートラルな音」という印象です。

音色がウォーム系かクール系かと言えば、おそらくサブベースがしっかり再現され、解像度が全周波数帯域で高い影響でややウォーム寄りかつ繊細で緻密な音にも感じます。仮に高音域のみ解像度が高いとクール系に感じやすいですが、そうした感じはなくほぼニュートラルに近い雰囲気です。

空間表現

THIEAUDIO Hype 2 の空間表現/サウンドステージは「狭すぎず広すぎず」で、空間が無限に広がるような感覚はありませんが、狭すぎることはなく適度な広さがあり、大きめのホールくらいの広さは感じられます。
音像定位や音像の大きさも、距離感も含めてかなり的確で、ここも音源の制作意図が忠実に反映される感じがあります。海外の立体感ある Mix の曲では、空間オーディオでなくても充分な立体的空間を感じることができます。

Armin van Buuren, Ferry Corsten, Rank 1 & Ruben de Ronde - Destination (ASOT 2024 Anthem)
空間上に立体的に配置された音像と、空間の広がりがわかりやすい曲です。

尚、個人的には全く聴かないのでわかりませんが、J-Pop の一部では立体感をなくした平面的な音が好まれるようで、そうした音源がどう聴こえるかは、他の方のレビューが参考になるかと思います。

低音域〜サブベース

THIEAUDIO Hype 2 の他の機種では滅多にない、忠実な再現能力があるのが、60Hz 以下から、人間の可聴下限とされる 20Hz 前後までのサブベース域です。海外の音楽ではすでにキック/ベースの主要周波数帯になっており、グローバルで人気を得るにはサブベース域の再現性が欠かせません。
それを過不足なく低歪で再現できるイヤホン/IEMを今までほとんど見かけたことがありませんが、この価格帯のIEMでそれを実現した機種は、THIEAUDIO Hype 2 が個人的には初めてかもしれません。

例えば、既存のオーディオファン向け、あるいはモニター向けIEMでも、30Hz以下の出力音圧レベルが下がり気味になっている機種が多く、形の上では人間の可聴周波数の下限とされている20Hz前後のサブベースを満足に再生できない機種がほとんどですが、THEIAUDIO Hype 2 は20Hz 近くまで自然なバランスで再生できています。

Hip-Hop や EDM など、現在の世界の音楽はサブベース(超低音域)が非常に重要な役割を果たしています。近年ではハイエンドオーディオでも、「日本以外」の展示会では EDM や Electronic Pops などがデモ曲として使われ、クラシックはごくわずか、あるいは一切流れないこともあるそうで、日本とは全く違った状況になっているようです。この THIEAUDIO Hype 2 は、そうした世界の音楽の潮流にも非常にマッチした機種とも言えそうです。

尚、低音域およびサブベース再生時の注意点が一つあります。それは、先ほどの「等ラウドネス曲線」で「聴感上の音量」が小さい時ほどカーブが急になっている関係で、再生音源が想定する音量以上にボリュームを上げすぎると、下の方の急なカーブがそのまま上に上がるため、相対的に低音〜サブベースの音圧が過剰になる点です。

Krewella, Yellow Claw ft. Vava - New World
おそらく過去のレビュー記事でも何度か紹介しているこの曲。THIEAUDIO Hype 2 で、ついに本来の音が再現できた気がします。この曲の非常に低い周波数帯のベースのリズムは、普通のイヤホン/ヘッドホンではまず再生できる機種がありません。海外の Hip-Hop 系の曲なども同様の超低音ベースを多用していることが多く、この価格帯でここまで低歪で再現できた機種は Hype 2 が初めてかもしれません。

中音域

THIEAUDIO Hype 2 の特徴の一つとして、中音域のクリアさも挙げられます。この記事前半部分でも取り上げていますが、音楽制作においても行われる、200Hz 付近を抑えたチューニングによって、200Hz から上の周波数帯への周波数マスキングが低減され、中音域〜高音域が曇りなく非常にクリアに聴こえるようになっています。

音楽制作でも使われる理論的な手法を IEM のチューニングに応用し、それを具体的に解説しているブランドは今まで見たことがありません。これによってボーカルや楽器がより一層際立つようになり、多少録音やミキシングに粗のある曲もきれいに聴こえるようになるかも(?)しれません。

ボーカルはもとより主要な楽器が集まる中音域は、全帯域での解像度の一様さもあり、どの楽器の音も分離感も充分にそれぞれのキャラクターがとても自然に聴こえます。

Pentatonix - Hallelujah
Leonard Cohen の “Hallelujah” は、クリスマスシーズンの定番曲の一つとして様々なアーティストにカバーされていますが、Pentatonix によるア・カペラ バージョンはその中でも圧倒的クオリティで、再生環境が良くなるほどそのリアリティに圧倒されます。

高音域

THIEAUDIO Hype 2 の高音域は、最近の高音域が派手な機種に比べると一見おとなしく聴こえますが、Hi-Fi スピーカーにも近い本来あるべき鳴り方、響き方をするように感じます。高音域は高次の倍音成分が多く含まれるため、高音域の音だけでなく中音域の音のニュアンスにも影響する重要な帯域です。

6kHz 付近で生じる歯擦音の「刺さり」等も一切感じず、トーンジェネレーターでチェックしてみても、8〜9kHz 付近によく見られるピークもなく、10kHz 以上にかけても聴感上の起伏がほとんどなく滑らかに伸びていきます。おおよそ THIEAUDIO が公表している、先に挙げた周波数特性グラフの通りの特性のようです。

DSP等でチューニングが可能なワイヤレスイヤホン以外で、高音域がここまで滑らかに整っている機種もなかなか珍しい気がします。大手ブランド製品でも暴れやすいチューニングをさらりとやってのける THIEAUDIO の技術力と音響や音楽に対する理解の深さは、やはり半端なさそうですね…

Novika - Movie girl
個人的に 8〜9kHz 付近の高音域の特性チェックによく使っている曲ですが、0:11 以降に「チーン」と約 8.4kHz の鉄琴系の金属音が入っており、かなりの数の機種でこれが「キーン」と強く響きすぎて金属の質感も何もなくなってしまいます。 が、THIEAUDIO Hype 2 では高音域のコントロールがうまくできているようで、Hi-Fi オーディオのスピーカーで聴いた時とほぼ同じ音色と強さで、質感も充分感じられる鳴り方をします。

THIEAUDIO Hype 2 総評

THIEAUDIO のIEMは、個人的にはこれまで他のシリーズを店頭試聴で好評価はしていましたが、正直なところ $299/¥49,800 (2023/12時点) という価格帯の Hype 2 が、このレベルの音を実現していることには驚かざるを得ません。

全周波数帯域に渡って音の質感や解像度が整って、音色的にもほぼニュートラルな特性のためか、どんなタイプの音源でもバランスよく鳴り、様々な楽器やボーカルの表現も非常にデリケートかつ豊かに感じます。

欲を言えば、付属ケーブルとシリコーンイヤーピースは、白よりはダーク系のカラーの方がモニター用途などでの使い勝手がよさそうな気がします。フェイスレートは写真では一見地味に見えますが、実際は光の加減や見る角度で見え方が変わります。が、やはりちょっと地味かな?という気はします。
その辺りは現在すでに Hype シリーズの上位機「Hype 4」「Hype 10」などが出てきているので、差別化されるポイントかもしれません。

ちなみに THIEAUDIO Hype 2 はフェイスプレートが2色展開で、

  • 光の加減で見え方が変わるグリッター網目パターンの「パープル (Zicao)」
  • 鳥の羽を散りばめたような「ブルー (Indigo)」

があります。

至高のサブベース(超低音)

個人的に、THIEAUDIO Hype 2 で最も驚いたと共に気に入っているのは、その「ほぼ理想的なサブベースの再現能力」です。ここまで音源がもつ本来の音を忠実に過不足なく再現できる機種は今までありませんでした。

日本や東アジアの一部では、他の国々と比べてメインストリームの音楽文化やその音の構成が大きく異なり、特にポータブルオーディオ機器ではそれがかなり如実に現れている傾向を感じます。そのためか、日本や東アジアのメーカー製品の多くが、サブベースが充分に再生できない、あるいは過剰に出過ぎるかどちらかの両極端な機種が多く、開発段階でそうした現代の世界の音楽事情があまり考慮されていないことが様々な面で伺えます。

そうした中で、中国と韓国の熟練のエンジニアによって作り出された THIEAUDIO 製品が、地域文化性を超えてグローバルで通用するチューニングになっていることは、特筆に値する点です。

グローバルミュージックのベンチマーク/リファレンスに?!

世界中のあらゆるタイプの音源を過不足なく再生できる Hype 2 は、ある意味一つのベンチマーク/リファレンスIEMとして、予算に余裕のある方は買って損はないと思います。特にサブベース域の再現性と全周波数帯域のバランスのよさにおいては、この価格帯ではこれ以上の機種を個人的に知りません。

後発の上位機種 Hype 4 や Hype 10 がどんなチューニングになっているのか気になりますが、その価格帯になると優れた競合製品もチラホラ出てきそうなクラスなので、まずは Hype 2 をオススメしておきたいと思います。

2023/12/16 現在一部品切れになっていますが、再入荷を待つ甲斐はあると思います。

⚠️ご注意
THIEAUDIO 製品は「Linsoul」および「ナイコム株式会社」が正規販売代理店で、Hype 2 の国内正規価格は ¥49,800 です。Amazon でそれ以外の海外出品者から異様に安く出品されている場合がありますのでご注意ください。

Hype 2 の上位機種 Hype 4, Hype 10

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