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TANCHJIM 4U レビュー 〜 すっきり美音系でボーカルが際立ち、サブベースもしっかり鳴らす低音可変イヤホン

TANCHJIM × HiFiGo 4U IEM

Sponsored Review
このレビューは、HiFiGo 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
尚、商品の購入先リンクには各販売元が提供するアフィリエイト型収益化プログラムを利用している場合があります。

アイディアにあふれ、ブランドポリシーの一貫した「TANCHJIM 天使吉米」ブランド

TANCHJIMタンチジム 天使吉米」ブランドは2015年の創立以来、デザインの優れた、音質的にも意欲的な製品を次々と生み出しており、2019年1月に日本でも発売された「Oxygen」のヒットと共に一気に認知度を高め、今や雰囲気的には「Moondrop 水月雨」の弟分的なポジションのブランドとして、日本でもお馴染みのブランドとなっていることは言うまでもないでしょう。

TANCHJIM ブランドの始まりは、高校の同人サークルが起源ということもあり、アイディア溢れる製品と最新の音響工学や音響生理・心理学を反映した製品の数々は、時折デザインを他の安価なIEMブランドに盗用疑惑や「インスパイア」されるほどで、毎回旧来のブランドとは一味違った、デザインやアイディアにこだわりある製品をリリースしている印象があります。

日本の代理店や販売店では「タンジジム」と表記したり呼ばれている場合がありますが、日本国内での商標登録上は「タンチジム」と「タンジジム」の両方とも登録され、「タンチジム」の方が先に表記されている他、おそらくポータブルオーディオファンの間でも読みやすさから「タンチジム」と呼ぶことが多いかと思います。

ちなみに中国本家の TANCHJIM天使吉米 公式が公開している中国語の動画などでも「タンチジム」に聞こえる発音です。

2024年5月末に発売された「TANCHJIM 4U」

TANCHJIM 4U は、2024年5月31日に中国で正式発売されたシングルダイナミックドライバー機で、“For you” を表す “4U” が機種名になっています。
その名が表す通り、ユーザーに寄り添った製品として、$69.99 という価格と価格以上の価値ある技術やチューニングだけでなく、使いやすさにも配慮された製品であることが伺えます。

HiFiGo ではパッケージのスリーブに HiFiGo のロゴも入った特別版を販売しています。中身は通常の TANCHJIM 版と全く同一とのことですが、中国国外向け販売においては TANCHJIM との協業も行なっているようです。

現在、Amazon、AliExpress、HiFiGo 直営の各ストアで販売されています。

製品コンセプト

「TANCHJIM 4U」の価格(MSRP: メーカー希望小売価格)は、$69.99USD。TANCHJIM のより低価格帯のケーブル交換可能なIEM「OLA」が $39.99 なので、その兄貴分にあたるポジションの機種になりそうです。
ケーブル交換可能な機種では、その上は $179 の「KARA」になるので、最近進化の目覚ましい$100未満の価格帯の「TANCHJIM 4U」は、TANCHJIM のエントリー機でもありつつ、ブランドの実力の一端もうかがわせるポジションと言えそうです。

Image credit: TANCHJIM

TANCHJIM 4U は、耳に収まりやすい形状かつコンパクトなシェルで、合理的な形状かつ見た目もクールなよくできたデザインだと感じます。

外観のデザインはスマートでクール。デザイン段階のスケッチが公開されているように、見た目のデザインと音響特性、機能性、装着感など奇をてらうことなく入念に設計され、非常に合理的なデザインに見えます。
シングルダイナミック型ドライバー機なので、液晶構造(LCP)のドームを採用したダイアフラムの構成だけでなく、ドライバーのマウント位置やエンクロージャーとなるアルミハウジングの形状や、ドライバーを覆うキャビティや、前後の空間の設計なども音質に大きく影響しているはずですが、独自の「DMT 4 Ultra」と呼ぶ技術を採用することで、音響特性の向上と音響・構造設計の容易化を図っているようです。

液晶ポリマー (LCP)」と言うと、液晶ディスプレイなどを想像しがちですが、溶融状態時に分子の直鎖が規則正しく並んでいる高分子熱可塑性樹脂のことを「液晶ポリマー」または「液晶ポリエステル」と呼び、液晶ディスプレイとは全く関係ありません

また、イヤホン側 2pin 端子のコネクター部が半埋め込み式で、外からの力がかかっても抜けにくく破損しにくい構造になっているのもポイントが高く、初心者にも勧めやすい機種とも言えそうです。

回転式低音切り替えスイッチ

さらに本体側面の回転式4ポジションスイッチにより、サブベース〜低音域を4段階で減衰できるなど、よくあるディップスイッチとは異なり、見たままに直感的に特性を変えられる機構を採用しており、ある意味実験・提案型の方式とも言えそうです。
出荷時には、音響的に最も自然なバランスの「ATMOSPHERE」の状態にセットされています。

Image credit: TANCHJIM

TANCHJIM 4U 基本スペック

Model 4U
ドライバー デュアルチャンバーダイナミック型ドライバー
技術:DMT 4 Ultra
振動板:PU懸架 LCPドーム複合振動板
インピーダンス 32Ω±5%
感度 122dB/Vrms
THD(全高調波歪率) 0.05% @1kHz 94dB
周波数レンジ 8Hz – 48kHz
コネクター 0.78mm 2Pin / 3.5mmプラグ
付属ケーブル Litz銅銀メッキ網組+銀メッキプラチナワイヤーシールド層

パッケージと内容・付属品

TANCHJIM 4U のパッケージは、12cm × 12cm で、CDのジャケットとほぼ同じサイズのコンパクトなもの。
今回は、HiFiGo さんからの特別サンプル提供のため、一番外側のスリーブのみ、「TANCHJIM」と「HiFiGo」のロゴが併記されていますが、通常販売版は「TANCHJIM」のみの表示になります。

スリーブを外すと、お馴染みの TANCHJIM のシンボルマークが入ったグレーの箱が現れます。

箱を開けると、一番上に付属品等が収まった薄い箱があり、それを取り出すと本体が現れ、さらにその下にケーブルが収められています。

内容・付属品

TANCHJIM 4U の付属品はシンプルながら、必要にして充分なものが入っています。
形状の異なるイヤーピース2種類に加え、「低音調整用の専用マイナスドライバー」が付属しているが大きな特長でしょうか。
キャリングポーチは TANCHJIM の初期製品からの「いつもの」が付属しています。

装着感

TANCHJIM 4U は比較的小型軽量のシェルで、装着感は軽くて良好です。 イヤーピースが2種類、各3サイズ付属しているので、色々試して装着感と音質がフィットするものを選べます。

TANCHJIM 4U は、主にイヤーピースで耳に固定する形式のため、ケーブルのタッチノイズはそれほど大きくはないものの、歩いているとやや気になる場合もあるため、分岐部のスライダーを上に上げる等である程度軽減できます。

試聴前の準備と試聴環境

Burn-in (エージング)

Burn-in は、毎回同様DAPに入れてあるあらゆるタイプの音楽や収録音を含む「試聴用プレイリスト」をランダムリピート再生する方法で、70時間ほど行いました。

参考:試聴用プレイリスト ストリーミング版

試聴環境

今回試聴には、$70弱という価格帯の機種ということから、 HiBy R5 Saber のほか、iPhone 15 に USB DAC として

等を接続したり、MacBook Pro 14"(2021) 上の Audirvana Origin Mac版 に Cayin RU7 を接続してNAS上の音楽データを再生するリファレンス的試聴の他、YouTube や Spotify 等の各種音源でテストしました。

尚、ドングルDACを使用する際は、USBケーブルとして各ドングルDACメーカー付属品より劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S を使用しています。

音質

💡注意
イヤホン/ヘッドホンの音の感想は、物理・生理的な違いや知覚・認知特性、嗜好などにより、感じ方の個人差が非常に大きいことに充分留意ください。IEC標準に準拠して測定された周波数特性グラフなども、もともとあくまで規格上の「標準耳」を仮定した上での参考値で、全ての人が測定グラフ通りに聴こえるわけではありません。

全体的な印象

チューニングスイッチは主に出荷時デフォルトの「ATMOSPHERE」位置で試聴しました。
この位置が人間の聴覚特性による「聴感上」は一番自然な周波数バランスに聴こえます。

TANCHJIM 4U、まず一聴して TANCHJIM らしい(?)、すっきりと見通しのよい音。

全体的な音の傾向としては、寒色系寄りかな?といったところですが、ボーカルや楽器などの表現は繊細なニュアンスもしっかり再現でき、それぞれの楽曲に応じた暖かみやなめらかさも感じられ、音のテクスチャー表現など解像度も充分な印象です。

中高音域〜高音域の女性ボーカルの倍音を含む帯域が特に明るく際立ちつつ、低音域が高音域と比較して比較的抑えめに聴こえることから、「すっきりした音」という印象を受けます。

低音側は量感は控えめながら、30Hz未満のサブベース(超低音)までしっかり出ており、この価格帯では「おっ」と思うようなイマドキの音楽をカバーできる周波数バランスになっています。

現代の海外 Pops などでは従来のバンド系音楽で使われる90〜100Hz前後のバスドラムに代わって、40〜50Hz前後のサブベース帯域に移行し、シンセドラム/ベースやリズムマシン等が主流になっていますが、そうした洋楽やK-POPなどもキックがしっかりと聴こえるので充分に楽しめ、EDM系などで多用される30Hz付近の超低音もぼやけることなく聴き取れるなど、チューニングが完全に現代の音楽に合わせられている様子です。


This spectrogram generated by Sonic Visualiser

日本のポピュラー音楽ではサブベースがほとんど使われないため、J-Popやアニメ系音楽を中心に聴く方にはピンとこないかもしれませんが、日本以外では今や音楽の主要周波数分布は下にも上にも拡大しており、自然音やライブに近いダイナミックな音になっており、そうした世界の音楽ニーズに順応したチューニングとも言えそうです。

ただ、TANCHJIM らしさ(?)を感じる部分として、空間表現の奥行き方向がかなり狭く、全ての音がすぐ目の前で鳴っているように圧縮され、横に広がって聴こえる感覚があります。この辺りは立体感より平面的な音を重視する傾向のある、アニメ系音楽を意識した部分なのかもしれません。

空間表現

普段、立体感や奥行き感のある曲を聴いている自分には、奥行き感が極端に狭く、横方向に広がった音に感じられます。アニメ/声優系の音楽で、時々「目の前で歌っているような音で聴きたい」という話を耳にすることがありましたが、そうした嗜好の方にはうってつけのような気がします。

奥行き感は全くないわけではありませんが、これまで聴いたり普段聴いている機種と比べると、明らかに奥行き方向が狭く感じる傾向があります。
よく「アニメ系を含む日本の音楽はミックスが平面的で絵画のよう」と言われることがありますが、そうした音楽を聴き慣れている方には違和感なく聞けるのではと思います。

ただ、立体空間を音が前にも後ろにも各音像がそれぞれの距離感や定位が変化しながら聴こえる、海外の Electronic 系音楽を好む自分には、なかなか厳しい部分ではありました(笑

低音域〜サブベース

メーカー公表の周波数特性グラフを見た段階で、おぉ!? と思ったのは、低音可変スイッチがデフォルト位置「ATOMOSPHERE」でのサブベース域の伸びです。当初は半信半疑でしたが、見事に 30Hz 以下までしっかりぼやけることなく出ていて驚きました。

世界の特にハイエンドオーディオ業界の潮流は、EDM系音楽の隆盛により「日本だけは別として」スピーカーでは様々な理由から難しい超低音・サブベースの再生・再現に注力している最中で、その点 IEM はサブベース(超低音)の再現に有利な面があり、そうした世界の時流に気づいているブランドの最近のIEM/イヤホン新機種が、続々とサブベースの再現性に注力し始めており、こうした動きは個人的には大歓迎です。

一昔前のIEM/イヤホンのサブベースというと、ブーミーでぼやけた音のものが多かったですが、最近レビューしている海外の機種ではサブベース(超低音)をブーミーさやぼやけ感もほとんどなく再生する技術が劇的に進化しているのを実感します。

Ava Max - Sweet but Psycho
何度か引き合いに出している Electronic Pop のこの曲。海外の Pops でよくあるタイプの帯域分布ですが、TANCHJIM 4U ではサブベースもリズムも過不足問題なく聴き取れます。

中音域

TANCHJIM 4U の最大のセールスポイントは、おそらく中音域〜中高音域の「ボーカルのクッキリした再現性」にあるのでは?と思うほど、ボーカルが非常にきれいに聴こえ、$69.99 という価格を忘れそうになります。

日本や中国の音楽シーンはとにかく「歌」が中心、というイメージが個人的にはあるのですが、まさにそこをメインターゲットに合わせたチューニングに思えます。特に女声ボーカルの再現性やクッキリさが際立っており、周波数帯では少し下の中低音域がやや抑えめになっていることが、ボーカル帯域へのマスキングを防ぐなど、かなり功を奏しているのではないか?とも思えます。

J-Pop曲などによくある、ボーカルが他の楽器に埋もれ気味になっているような曲も、他の機種と比べてボーカルの聴き取りやすさが際立ちます。

自分では聴かないタイプの曲ですが、TANCHJIM 4U は、J-Pop 的なサウンドの曲との相性が比較的良い印象があります。

高音域

高音域は明るく適度な煌びやかさがありつつ、派手すぎない絶妙なチューニングです。

歯擦音の刺さり等は自分の耳では一切なく(個人差が大きい部分です)、シングルダイナミック型ドライバーの典型的な特性にはなっていますが、設計上うまくコントロールされているように感じます。
この辺りはどのメーカーも積年の技術がある部分かと思いますが、2015年に創業した TANCHJIM ブランド自体が、当初は学生サークルに端を発しているなど、高音域〜超高音域の聴覚感度の高い若いメンバーが中心となっていることなども、チューニングなどに良い方向に働いているのではとも思えます。

総評

TANCHJIM の主力機種は $200〜$600 クラスが中心ですが、$100以下の低価格帯の機種は上位機の技術を応用しつつも、例えばこの 4U では低音可変ロータリースイッチなど、新たな試みに取り組むなどチャレンジングな部分をもち、独創的な技術研究開発を行っていることが伺えます。

IEM/イヤホンは、ドライバーの方式は別として、一見基本原理はおおよそやり尽くされたように見えて、生産技術の進展などと共に、まだまだ可能性が開けていることを改めて実感する機種が最近とても多いように感じます。

TANCHJIM 4U も、この価格帯で低音可変ギミックに加え、トータルでのチューニング技術などもコンセプトに忠実に実現されており、オーディオだけでなく音楽制作のノウハウなども取り入れたのかな?と思えるほどに格段に進展していることが伺え、「使って楽しい」機種に思えます。

見た目のデザインも美しく、付属品も充実しており、すっきりとした音で特に女声ボーカルを美しく聴きたい方にはオススメの機種になりそうです。

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