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Elysian Acoustic Labs PILGRIM レビュー 〜高級IEMブランドの鍛え抜かれた音をこの価格帯で聴ける驚き

Elysian Acoustic Labs PILGRIM

Sponsored Review
このレビューは、HiFiGo 様よりサンプル機をレビューツアー形式で貸出いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
尚、商品の購入先リンクには各販売元が提供するアフィリエイト型収益化プログラムを利用している場合があります。

Elysian Acoustic Labs というと、数年前から日本国内の展示会で見かけるようになった高級IEMブランドというイメージがあり、基本的には20万円以上、40万円以上という高価格帯の機種が中心です。

しかし今回紹介する「PILGRIM (巡礼者)」という名の機種は、同ブランド初のエントリー機で、$399 という価格で 2024年5月7日 にリリース。
この記事の執筆時点では Amazon Japan にて HiFiGo より 65,244円 で販売されています。
(現時点では、HiFiGo からの発送のため、AliExpress の HiFIGo ストア、あるいは HiFiGo 直営オンラインストアでの “Priority Shipping” (諸税手数料込) 購入がお得かもしれません。)

この「Elysian PILGRIM」、エントリー機とは言うものの、一聴して一切妥協の見られないそのサウンドとチューニングに驚きました。
音楽ジャンルによっては、サブベース(超低音)域の周波数特性の関係で、若干イヤーピース選びが難しいものの、最適なイヤーピースが見つかると、その音は $399 クラスの音を遥かに超えているのではとも思えます。

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HiFiGo

各ストア、ケーブル/プラグ違いの「4.4mm 版」「3.5mm 版」の2パターン、AliExpress および HiFiGo 直営では、加えて「4.4mm+3.5mm 同梱版」および 「3.5mm 版ケーブル単体」があります。イヤホン側コネクターは、Pentaconn Ear (Short Type)です。

Elysian Acoustic Labs とは

Elysian Acoustic Labs というブランドは、マレーシアに拠点を置くIEMブランドで、創業者でありオーディオファンでもあるエンジニアの Lee Quan Min 氏が、2015年頃から「Ultimate Ears TripleFi 10」の修理やリシェルなどのカスタマイズを趣味で行なっていたのが起源のようです。

その後、2016年にIEMのリシェルサービスを行う「Elysian Acoustic Labs」を創業。そこで Lee 氏はあらゆるタイプのIEMのリシェルを経験したり、カスタムIEMの設計制作を多く手がけ、不可能と思われることを実現する素養が養われていったようです。

そして、大きな転機となったのが、2018年〜2019年にフジヤエービックのヘッドフォン祭で発表された、フォスター電機 (FOSTEX) 製のダイナミック型ドライバーを使用したIEMの自作コンテスト「フジヤエービック × FOSTER Alliance Program ヘッドホン・イヤホン 自作コンテスト」のイヤホン部門に応募し、見事に1位の座に輝いたこと。

これを機に、Lee 氏はフォスター電機製のダイナミック型ドライバーへの理解をさらに深め、ドライバーをコントロールする「Dive Pass」と呼ぶ技術を独自に開発。
そして、Elysian Acoustic Labs オリジナルのユニバーサルIEMの開発・製造・販売が始まったようです。

その後、ヘッドフォン祭やポタフェスなどで、Elysian Acoustic Labs の出展をよく見かけるようになったのは記憶に新しいところかと思います。

現時点では、日本では正式に代理店販売等はされていないようですが、今回の「PILGRIM」がヒットすれば、日本でも正式に購入できる日が来るかもしれません。

Elysian PILGRIM 製品コンセプト

Elysian Acoustic Labs 公式製品ページ

今回レビューする製品、Elysian Acoustic Labs PILGRIM は、2024年5月7日に満を持してリリースされたばかりの新機種です。

Elysian PILGRIM の位置付け

Elysian Acoustic Labs では、$1,600 〜 $3,000 クラス (20〜40万円) の高級機を中心に取り扱い販売していましたが、今回の「PILGRIM」は、そこから劇的に価格を抑え、$399 という日本円でも10万円未満 (現在の為替レートでは約6.5万円)のエントリーモデルとして開発された機種のようです。

「PILGRIM (巡礼者)」という機種名とともに、高級ブランドと認識されている ELYSIAN ブランドにとって、第一歩を踏み入れてもらうための布石となる存在であることを伺わせるプロモーションも出ており、ブランドにとって重要な位置付けの戦略的な製品であるように見えます。

Image credit: Elysian Acoustic Labs

ありふれた日常を捨て、旅に出る勇気はあるか?
PILGRIM “巡礼”、さらなる高みへの旅、大いなる悟りへの道

未知なるものを恐れるのは当たり前 求めよ、さらば与えられん
予想にとらわれず、自らの世界への唯一の道を歩むのだ
The ELYSIAN World へ

Lee, ELYSIAN ACOUSTIC LABS 創設者

デザインコンセプト

Image credit: Elysian Acoustic Labs

PILGRIM IEM のデザインは丘の穏やかな地形からインスピレーションを得ており、微妙で目的を持った各層がなだらかな起伏のある丘を反映しています。

細心の注意を払って作られたそのデザインのすべてのステップは意図的であり、巡礼者の最初の Elysian の旅、つまり悟りを求めて谷と峰を絶え間なく進む道に呼応しています。

構成

Elysian PILGRIM は、9.2mm の低域用ダイナミックドライバー×1, Sonion 製の BA ドライバーを中音域用と高音域用に1基づつ採用した、ハイブリッドドライバー機です。

Image credit: Elysian Acoustic Labs

構成としてはシンプルですが、各ドライバーの固定部分をどうやら3Dプリンターで成形し、セミオープン型の金属製シェルに、3-way クロスオーバー回路を綿密にチューニングして搭載しており、その精度はその音に表れているように、非常に精緻で完成度の高いものとなっています。

LSR製ダンパー付 9.2mm Mg+Al ダイアフラム ダイナミック型ドライバー

Elysian 社が「LSR ダイナミックドライバー」と呼んでいるものは、ダイナミック型ドライバーの外側を制振効果のある LSR(Liquid Silicone Rubber)製のダンパー(制振材)で覆ったものです。呼称が紛らわしいですが。

また、このドライバーのダイアフラム(振動板)は、マグネシウム・アルミニウム合金製とのこと。

調べてみると、2021年11月に日本でも発売された、「 Vision Ears EXT(ELYSIUM EXTENDED 」の低域用ドライバーに全く同じ仕様の LSR 9.2mm ドライバーが採用されていました。

Image credit: VISION EARS

eイヤホンの商品ページの、代理店による日本語版解説の翻訳はアヤシイですが、ダイナミックドライバーを LSR(Liquid Silicone Rubber) で覆うことで制振効果を発揮し、THD (高調波歪み) を低減する効果があるようです。

Vision Ears EXT は40万円以上する機種なので、仮に同じドライバーが採用されているというのであれば、Elysian PILGRIM はなんとなくお得感があります (笑)

Image credit: Elysian Acoustic Labs

Elysian Acoustic Labs PILGRIM 基本スペック

ドライバー 1× 9.2mm マグネシウム・アルミ合金ダイアフラム LSRマウント DD (低域)
1× Sonion 2300シリーズ BAドライバー (中音域)
1× Sonion E50シリーズ BAドライバー (2チャンバー, 1ノズル) (高音域)
★部品としてのドライバー数は3基。Sonion E50シリーズはデュアルチャンバー型ドライバーのため、メーカー側はダイアフラム(振動板)の数でカウントして「計4ドライバー」と表記しているため注意。
クロスオーバー回路 3-Way
感度 101dB @1khz @100mV
インピーダンス 9Ω @1kHz
周波数レンジ 10Hz-20kHz
ケーブル 銀メッキ銅線
ケーブルコネクタ Pentaconn Ear (Short)
ケーブルプラグ 3.5mm or 4.4mm
付属イヤーピース SpinFit CP100

蛇足:オーディオ製品スペック表示の不誠実さ

Elysian Acoustic Labs の公式サイトや公式ソーシャルメディアでも、ドライバー数の表示方法にばらつきがあり、「Sonion E50」自体が1基あたり2つのチャンバー、1つのノズルをもつBAドライバーのため、あちこちで見る高音域用ドライバー “2× Sonion E50” という表記は、ダイアフラムあたりの計算でいくと、高音域用ドライバーが実質4ドライバー(片側計6ドライバー)になってしまい、「嘘」になるので、ブランドの姿勢としてあまり感心できません。

また、“9.2mm LSR DD” との表記も、LSR (Liquid Silicone Rubber) はドライバー内部ではなく、ドライバーの外側を覆って振動を吸収するために使用しているパーツで、「Vision Ears EXT」にも公称スペック上は同一仕様のものが採用されていることから、サプライヤーからアセンブリ供給されていると思われますが、“LSR DD” という表記には違和感を感じます。それよりも、慣性質量の大きそうなマグネシウム・アルミ合金製のダイアフラムのため、共振防止や制振のために LSR を採用しているとアピールした方が効果的な気はしますが、実際のところはわかりません。

こうした奇妙なスペック表記は、このブランドに限らずポータブルオーディオ業界全般でよく見かけるので、文化なのかもしれませんが、少なくとも業界の発展のためには好ましくない気がします🤔

パッケージ内容・付属品

パッケージはほぼ立方体。今回はレビュー用サンプルのため、パッケージング状態等は割愛しています。

内容・付属品

Image credit: Elysian Acoustic Labs / HiFiGo

シェル本体

Elysian PILGRIM の本体は、ノズル部分には 304ステンレス を使用していることはメーカーの謳い文句に書かれていますが、シェル本体およびフェイスプレートについては特に具体的な記載はなく、比較的軽量なためおそらくアルミニウム合金製ではと思われます。

シェルの形状含めたデザインは、ロータリーエンジンのローターを思わせるようなフェイスプレート外形の曲線や、シェル曲面のカーブなどが非常に美しいので、所有欲を満たしてくれそうです。

シェルボディ側はサンドブラスト風のマット仕上げになっていますが、フェイスプレートの同心円状の光沢部は光の当たる角度で反射してとても美しいデザインです。しかしこの光沢部はやや傷つきやすく、取り扱い上の注意点かもしれません。

今回はデモ用サンプル機のためか、アルミニウム合金製と思われるフェイスプレート光沢部に細かな傷が見られました。アルミニウム合金にも様々な種類がありますが、基本的に柔らかい金属なので、傷が目立ってきたら時々アルミ磨きクロス等で磨いて手入れするとよいかもしれません。

⚠️注意:市販の金属磨きクロスは研磨剤とワックス等を含んでいることが多く、こうした手入れや処置はメーカー等で推奨されたものではありません。事前に他の部品等で試してその特性を充分把握するなど、あくまで自己責任で行なってください。

キャリングケース

付属のセミハードキャリングケースは非常に質感がよく高級感があり、サイズ的にも余裕をもって安心して収納でき、かつ大きすぎないので実際の持ち運びや保管にも便利そうです。

ケーブル

付属のケーブルは、絡まりにくくしなやかで高級感があり、タッチノイズも少ないケーブルです。本体側は Pentaconn Ear (Short) 端子のため、接点の安定性も安心です。ただ、現行の Pentaconn Ear プラグの構造上、容易に回転してしまう点だけは惜しいところです。

ケーブルは、3.5mm シングルエンドタイプと、4.4mm バランスタイプの2種類があり、購入時にどちらかのタイプを選択できます。
最近のプラグ交換式ケーブルと比べると取り替えたい際は手間がかかりますが、接点箇所を不用意に増やさず少なくできるため、音質上はメリットになりそうです。

装着感

装着感は自分の耳ではかなり良好で、しっかりホールドでき、シェルが比較的軽量なのもあってか、動き回っても外れそうな心配もない感じでした。
今回は後述するサブベース域の音質チューニング上の点から、付属の「SpinFit CP100」ではなく「Symbio W」を使用しており、装着安定性はイヤーピースによる部分も大きい場合もあるので、さまざまなタイプを試してみることをおすすめします。

試聴前の準備と試聴環境

Burn-in (エージング)

今回はレビューツアーのため、前の方が充分鳴らしこんでいるはずなのでそのままでもいいのですが、日本人が主に聴く音源には少なそうな超低域(サブベース)での Burn-in が不十分な場合も考えられるため、念の為、いつものDAPに入れてある試聴用プレイリストのシャッフル再生で30h程「追い Burn-in」(笑) をしました。

試聴環境

今回試聴には、前回 ESS 製のDAC「ES9068 AS/Q」採用機で音質上の問題が判明したため、Astell&Kern KANN ALPHA(ES9068AS) の音質評価目的での使用は取りやめ、ポータブルDAPは HiBy R5 Saber (CS43198)のみとし、MacBook Pro 14"(2021) に USB DAC として、手持ちのドングルDACでは最も音質に信頼がおける、

を接続し、Audirvana Origin (Mac版) にて、NAS上の音楽データを再生した他、YouTube や Spotify 等の各種音源でもテストしました。

尚、ドングルDACを使用する際は、USBケーブルとして、電源線/信号線が完全分離&シールドされ、メーカー付属品より劇的に本来の音質に近づく ddHiFi TC09S のみを使用しています。

サブベース域の特性からイヤーピースの選定に難航

「Elysian PILGRIM」で最も悩んだのがイヤーピース。付属の SpinFit 100 (おそらく)では、30Hz 付近はかなり強めに出るものの、その上の 40Hz 〜 50Hz 付近の現代の Electronic Pop や EDM などで重要な「キックの周波数帯」が抜け落ちる、という謎の特性・現象に直面し、イヤーピース選びには苦労しました。

この特性が、このサンプル機の個体/ロット特有のものなのか、製品としてのチューニング意図なのかはわかりません。

個人的に20年以上日本の音楽は主に音質の問題からほぼ全く聴かず、普段はワイドレンジで高音質な海外の音楽しか聴かないので、最も重要なリズム/ビートの周波数帯である 40Hz〜50Hz が充分に聴こえないと言うのは死活問題です。

手持ちのあらゆるタイプのシリコーン製イヤーピースで試してもこの傾向はは大きく変わらず、フォームタイプのイヤーピースではサブベース帯域自体が抜けてしまうので、どうしたものかと困りました。そして、最終的にふと思い出したのが「Symbio W」。

Symbio W」は、表面はシリコーン製で、その中身にウレタンフォームが充填された構造で、肌触りはシリコーン製とおなじくサラサラとしていて、遮音性と音の反射がシリコーン製+緻密なウレタンフォーム製を掛け合わせた状態になり、それがちょうど 40Hz 〜 50Hz のサーブベース帯域を減衰させずに反射して耳の中に送り込む働きをしてくれたようです。

そして、 「Elysian PILGRIM」は、イヤーピースに「Symbio W」を装着することで、ほぼ完璧に近いサーブベース域の周波数バランスを実現できるようになりました。(⮕ 具体例を後述しています)

以降の音質評価は、付属の SpinFit 100 ではなく、この Symbio W を装着した状態での評価になります。

音質

💡注意
イヤホン/ヘッドホンの音の感想は、物理・生理的な違いや知覚・認知特性、嗜好などにより、感じ方の個人差が非常に大きいことに充分留意ください。IECに準拠して測定された周波数特性グラフなども、もともとあくまで規格上の「標準耳」を仮定した上での参考値で、全ての人が測定グラフ通りに聴こえるわけではありません。

全体的な印象:価格からの想像以上に好印象

まず美しくフィット感も良く軽量なアルミ製の筐体。同心円を基調としたフェイスプレートで、見た目もさりげなく美しくクールさがあります。

そしてサウンドは10Hz台の超低音域から超高音域まで、超ワイドレンジ。かつ、特に中音域から高音域、超高音域にかけての音の質感がとても心地よく、解像度がどうのこうのと言う必要がないレベル。

音の傾向は、ほぼニュートラルで硬くも柔らかくもなく、音源の質感を忠実に再現してくれるイメージ。その心地よく精緻な音ゆえ、音の方向性としては「リスニング向け」と言えそうです。

また、上流の音源や再生機器の特徴などもはっきり現れるため、相応の音質性能をもつ再生環境で再生した方がよく、概ね倍の価格の機種と思って扱った方がよさそうな印象。そして、上流の再生環境にもよりますが、リスニング寄りの心地よい音の中にも、モニターのような正確さも持ち合わせている印象も感じました。

サブベース域の50Hz前後だけ聴感上の音圧が低下した特性がややネックか?

唯一気になる点としては、先にイヤーピース選びの件で挙げたように、超低音域の30Hz付近がやや強めに出る傾向があり、40Hz〜60Hz 付近に比べてやや強すぎるのでは?というのが唯一の音質上の難点。

この辺りのサブベース帯域は、海外 Pops など Electronic Music では多用される周波数帯なので、元の音楽信号の聴感上のレベルに対して、40Hz よりも 30Hz以下が強く出すぎてしまうことが唯一気になる点です (物理的な音圧レベルは周波数が低いほど高めになるのが自然ですが、30Hz以下はやや高くなりすぎる傾向を感じます)。この辺りは聴く音楽のジャンルにもよって気にならない場合もあるかもしれませんが、今や世界の Pops で中心的になってきた、Electronic Pops などあらゆるジャンルの音楽を聴く方には要注意なポイントです。

サブベースの質感については、例えば THIEAUDIO のアイソバリック式サブウーファー技術「IMPACT²」採用機 (Hype シリーズ等) の方が歪み感少なくクリアに聴けるかな?という印象はあります。しかし、中音域〜高音域を含めた総合点では「Elysian PILGRIM」は期待以上の好印象です。

それ以外はほぼ全くといっていいほど気になる部分がなく、$399 という価格帯では、驚異的に優れたバランス。下手にその数倍の高価な機種に手を出すよりも、この「Elysian PILGRIM」をイヤーピースやケーブルでチューニングを攻めていく方が楽しめそうな雰囲気さえ感じます。

セミオープン式ならではの開放感と音漏れの注意

「Elysian PILGRIM」には、ハウジングのフェイスプレートに片側6箇所づつ、同心円状のデザインに沿って配置されたベント孔があり、おそらくセミオープン式と思われ、そのおかげで空間表現力が非常に自然で広いのも、この機種の大きな特徴と思います。
特に、特定のジャンルではなくあらゆるタイプの音源を日頃から聴く自分には、前後左右上下とも音源毎のミキシング手法に忠実な立体表現がしっかり再現されるように感じます。

ただ、セミオープン式ならではの、避けられない若干の音漏れがあり、周囲の近くに人がいる非常に静かな環境では注意が必要かもしれませんが、よほど耳を近づけないと聴こえない程度です。

空間表現

セミオープン式のハウジングの効果もあってか、空間表現が非常に広く、音源のもつ空間に忠実に空間が広がる印象です。

広大な奥行きや幅や高さを持つ音源では、空間上の音像定位がとても自然で、音像の方向や距離、大きさ、質感などがわかりやすい一方で、奥行き方向に距離感のない音源では、奥行きがないまま左右上下方向に極端に音像が広がってしまうものもありました。
この辺りは音源毎に差が大きい部分でもあり、オーケストラや、海外の立体的な空間表現の Electronic 系音源では、非常に広大な空間上に音像定位や動きを感じることができ、日本のポピュラーミュージック系音源ではそれに対して極端に至近距離に音像が定位するものが多い印象がありました。

この辺りは普段聴く音楽の種類やジャンルの幅によって印象がかなり異なるかもしれません。

KSHMR - The World We Left Behind (feat. KARRA)
無限に広がる空間の広さや、各音像の定位位置の距離感や大きさ、移動などを体感できる定番の曲。「Elysian PILGRIM」では、セミオープン式のハウジングの効果もあってか、空間の広がりや各音像の立体的な定位が非常に自然に感じられます。

低音域〜サブベース

「Elysian PILGRIM」を初めて聴いた時に、まずあっと驚き、他の機種には滅多になく特徴的だと感じたのが、超低音域(サブベース) の再現性。サブベースの中でも 20〜30Hz 付近の、他のほとんどのIEMではおよそ再現ができないか難しい「サブベースのローエンド」をいとも容易に再生してしまう能力。

バスドラムをキックに使うバンド系音楽を中心に聴く方にはあまり知られていない/特に気にされていないかもしれませんが、海外の音楽では今や 30Hz〜60Hz 付近のサブベースは非常に重要な帯域で、スピーカーでもイヤホンでも近年は低歪でサブベースの再生能力を高めるための様々な技術が開発され進化している真っ最中です。

ただし先に触れたように、今回評価した「Elysian PILGRIM」サンプル機、素の状態では今時の海外の音楽のキックの周波数、40Hz〜50Hz 付近がなぜか 30Hz 前後よりも弱く、「キックが聴こえない」という特性になってしまっており、ひとまずイヤーピースにシリコーン製とフォームタイプの両方の機能を併せ持つ「Symbio W」を使用することで改善しましたが、付属の SpinFit CP100 および他の様々なシリコーン製イヤーピースやフォームタイプのイヤーピースでも正常な周波数バランスにならないので、チューニングの微調整あるいは付属イヤーピースの変更等を期待したいところです。

DAPなどポータブルプレイヤー側のEQは、大抵 32Hz までは調節できますが、それ以下の周波数を含めてピンポイントで補正するのは PEQ でも難しく、DAWやEQプラグインレベルの精度が必要になってしまいます。

Ava Max - Sweet but Psycho

Electronic Pop のこの曲では、サブベースに、より低い周波数に伸びるリズムサウンド使われており、Elysian PILGRIM では、32Hz以下の周波数まで伸びているのがしっかり聴き取れます。バンド系「以外」の現代のポピュラー音楽では、先にも比較例を挙げたようにキック/ベースがこうした周波数分布になっていることが多くあります。


This spectrogram generated by Sonic Visualiser

ただ、イヤーピースを付属の SpinFit CP100 や通常のシリコーンタイプのものにすると、サブベースのキックに相当する周波数 (50Hz付近) が聴こえなくなり、周波数の低い方 (32Hz付近) のみが聴こえるという奇妙な音になり、先に挙げたように、イヤーピースを「Symbio W」に替えることで、50Hz 付近と 32Hz 付近の両方ともバランスよく聴こえるようになりました。

中音域

中音域、ボーカルや楽器の質感を含めた表現は非常になめらかかつ緻密で、特にクセがないため非常に安心して気持ちよく聴ける印象です。やはり Sonion 製の BA ドライバーの音は好きだなーと改めて感じ、低音域のダイナミック型ドライバーからのつながりの自然さなど、クロスオーバーネットワークの完成度も非常に高いと感じます。

様々なタイプのボーカルや楽器も、薄すぎることも厚すぎることもなく、音源品質に忠実に、微妙なニュアンスも心地よく聴ける印象です。

HALIENE - Walk Through Walls (Official Music Video)
ヴォーカル曲ですが、アコースティック楽器から Electronic サウンドまでふんだんに使用され、周波数帯も超高音域から1桁台の超低音域(サブベース)まで使い切った、非常にレンジの広い曲で、この曲が満足に再生できるオーディオ機器はかなり優秀と言えるでしょう。

高音域

高音域は、目立って強く出る周波数帯もほぼなく、非常に自然で安心して聴ける印象です。派手でも控えめでもなく、ちょうどよい出方に感じます。

この帯域には中音域の豊かな倍音がきれいに伸びてくるため、声や楽器の表情や、繊細な空気感などがとても心地よく感じられます。さらに、高音域〜超高音域のアタックのレスポンスも非常によく、キレのよい金属音がその繊細な余韻とともに聴き取れます。

中〜低価格帯では全般的に派手目になりがちなこのクラスの機種で、このレベルのコントロールされた高音域を味わえるのは、意外に少ないかも?と思ってしまうほどです。

個人的にそこまで多くの機種を聴き比べていないのでなんとも言えませんが、高音域は、メーカーや機種によって非常にチューニングのバラツキの大きい帯域かつ、個人差による聴こえ方の違いが最も大きい帯域でもあるので、この帯域が過不足なく安定しているのは非常に魅力的です。

Phildel - The Disappearance of the Girl
高音域から低音域まで広いレンジの中に、ややハスキーな Phildel の女性ヴォーカルがナチュラルに響くこの曲は、全体的な周波数バランスやそれぞれの音の質感を把握するのにも好都合な曲です。

総評

「Elysian PILGRIM」。普段個人的なリファレンス機として、Softears RSV を使っている自分から見ても、$399 という価格帯でこの音質性能と付属品を含めたパッケージングは、驚異的に感じます。

今は円安のために、2, 3年前の機種との日本円での価格帯比較が成り立たないのをふまえても、価格では倍近い Softears RSV とも比較ができるレベルの音質です。

Elysian Acoustic Labs はその誕生経緯からしても、自身もオーディオファンである創業者の Lee 氏の豊富な経験に基づく確かな耳と技術に支えられ、これまでおそらく少量生産の高級機を中心に取り揃えてきた中、この「PILGRIM」はブランドのエントリーモデルとは言え、Elysian Acoustic Labs ブランドの妥協のない確かな技術とチューニング、そしてブランドポリシーを端的に体験できる機種なのかもしれません。ヒット作の予感がします。

今回はレビューツアーでの評価でしたが、個人的に欲しいと思える機種 なのは確かです。(ほしいw)

現時点 (2024年5月時点) で気になる点など

現時点で気になる点としては、次のような点が思い浮かびますが、どれもいずれ解消される or 解消可能なのでは?と思われます。

  • 50Hz 前後のサブベースが、30Hz 以下や 60Hz 以上と比べてなぜか出力レベルが下がり気味で、シリコーン製イヤーピースでは Electronic 系 Pops や EDM などのキックが聴こえなくなるなど、音のバランスが崩れる。
    ➔ イヤーピースを「Symbio W」にすることでほぼ解消可能。また、J-Pop / Rock などバンド系音楽を主に聴く方にはほぼ関係ない周波数帯のため、そうした方は気にする必要なし。(今回のレビュー用個体 or 初期ロット固有の問題の可能性もなきにしもあらず…)

  • フェイスプレートのアルミ合金のリンク状光沢部がアルミの柔らかさゆえか傷つきやすい。
    ➔ おそらくデモ機のために傷が多かったのではと思われるので、「気になる方」は傷のない新品のうちにガラスコート等を施して保護で対策可能(eイヤホンの「eSiq」でもOK)。または先に挙げたようなアルミ用研磨剤等で磨いてからガラスコート等での保護でもOK。

  • 日本国内では展示会には出展されているものの、現時点では国内正式販売はされていない。
    ➔ 現時点では

で購入可能。ただしいずれも HiFiGo からの発送になるので、お好みで。
★ HiFiGo 直営オンラインストアは、他のストアに比べて為替の変動がほぼリアルタイムに反映されるため、円高になった時を見計らって JPY で購入すると他のストアより安くなるかも? さらに、“Priority Shipping” (個人輸入に係る内国消費税など諸税・手数料込) での購入が可能です!

価格帯を超えるかなりオススメの機種!

$399クラスの価格帯は、現在での円安下でも税込10万円未満で、2, 3万円クラスの機種からのステップアップや音質に妥協のない愛機になりやすい価格帯ですが、メーカーによっては味付けが濃い機種が多いのも事実。

そんな中で、「Elysian PILGRIM」は、あらゆるジャンルを安心して心地よく聴ける機種として、ひとつのリファレンス/ベンチマーク機としても持っておきたい機種にもなりそうです。


購入先 (2024年5月時点)

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HiFiGo

各ストア、ケーブル/プラグ違いの「4.4mm 版」「3.5mm 版」の2パターン、AliExpress および HiFiGo 直営では、加えて「4.4mm+3.5mm 同梱版」および 「3.5mm 版ケーブル単体」があります。イヤホン側コネクターは、Pentaconn Ear (Short Type)です。

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