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Kiwi Ears CADENZA レビュー 〜 TRIPOWIN の姉妹ブランド?エントリーモデルながら音も見た目もよいイヤモニ(IEM)

Sponsored Review
このレビューは、Linsoul Audio 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。

最近の中国メーカー製の、$50以下の低価格帯イヤホンの性能向上はめざましく、日本で1万円以上で売っている機種を軽く超えてきている感があります。もちろん、オンライン販売に特化することで営業コストを大幅に抑えられるため価格的に有利な点はありますが、それを差し引いてもレベルが高い機種が次々と登場している印象があります。

今回紹介する「Kiwi Ears CADENZA」という機種も、そうした機種の一つで、海外では $34.99、日本のAmazonでも税込5千円台前半で販売されている機種です。

TRIPOWIN の姉妹ブランド?「Kiwi Ears」

Kiwi Ears」というこの聴き慣れないブランド名、調べてみるとどうやら中国のイヤホンブランドとして知られている「TRIPOWIN」と同じ会社が商標申請しており、マーケティング上のターゲットを絞った新しい姉妹ブランドのようです。

「Kiwi Ears」はミュージシャン/スタジオ向けのIEMブランドらしい

「Kiwi Ears」ブランドの解説によると、ミュージシャンやスタジオエンジニアを念頭に置き、最高のIEMとしてあらゆる妥協を排した比類なき製品を目指しているようです。(↓全文はこちら:翻訳機能等でご覧ください)

About Kiwi Ears

Driven by the pursuit of extraordinary audio reproduction, at Kiwi Ears, we create the perfect amalgam of technological innovations with refined tuning strategies.
With musicians and studio engineers particularly in mind, we are on an uncompromising quest to produce the finest professional In-Ear Monitors that will reveal every nuance in your music and performance. Never settling for mediocre, our small team of dedicated engineers handcrafts each unit so that you can worry less about what’s in your ears and focus more on the sounds you are making.
We are Kiwi Ears, and we’re bringing you music heard like never before.

Kiwi Ears Cadenza – Linsoul Audio

Kiwi Ears CADENZA の主要諸元 (意図的な誤表記?)

Linsoul Audio の商品ページには、次のように書かれていますが、

Image credit: Kiwi Ears

正しくは

❌ Beryllium Dynamic Driver (ベリリウムドライバー)
⭕️ Beryllium Coated Dynamic Driver (ベリリウムコートドライバー)

です。

「純ベリリウムドライバー」と「ベリリウムコートドライバー」の決して埋められない溝

販売サイトの製品紹介やスペック一覧では「10mm ベリリウム振動板のダイナミックドライバー採用」と高らかに宣伝されていますが、賢明なオーディオファンなら想像がつく通り、純ベリリウムドライバーのイヤホン/IEMは、調達の難しさなどの理由で世界でも現行機では片手で数えるほどの機種しか存在しません。

IEMに純ベリリウムドライバーを採用するのがなぜ難しいのか、詳細な事情については、以前 FiiO の James 社長が FD7 開発秘話で語っているので、ご存知の方も多いでしょう。

  • Chapter 18 FD7, the masterpiece of FiiO’s Dynamic Driver Technology (Oct 25, 2021)

そして CADENZA のパッケージをよく見ると、側面には「10MM BERYLLIUM CORTED DYNAMIC DRIVER」と書かれており、「ベリリウムコート」ダイアフラムのダイナミック型ドライバーを採用していることがわかります。

純ベリリウム製ではなくベリリウムコートのダイアフラムであれば、この価格帯の機種にも採用が可能な価格で、販売サイトの記載や宣伝文句はおそらく意図的にミスリードを誘っているのでしょう。(コーティングされているのが「ベリリウム」なのか「ベリリウム銅」などの合金なのかは、この際脇に置いておいて…)

Image credit: Kiwi Ears

この辺りの意図的にミスリードを誘う広告宣伝は、中国メーカーではよくあるパターンなのですが、ブランドの信頼を損なうだけなのでやめた方がいいと思いますし、日本でこの宣伝文句のまま販売すると日本の法令により景品表示法違反等の法令違反になる可能性が高いので、Linsoul Audio さんには充分気をつけて欲しいところです。

Kiwi Ears CADENZA の場合、パッケージの側面に正しく「BERYLLIUM CORTED DYNAMIC DRIVER」と書かれているので、まだ救いがありますが、BERYLLIUM DRIVER を採用しているかのように高らかにミスリードを狙って訴求する宣伝手法により、個人的には Kiwi Ears や姉妹ブランドと思われる TRIPOWIN のブランドイメージや関心をやや損なう結果となりました

日本のオーディオファンの中には、メーカーの開発エンジニアと対等に技術的な議論ができるような技術職に就いている方や、趣味でオーディオ機器を自作する技術を持った方も少なくありませんので、ブランドのターゲット層によっては、ブランドの価値を高めたいと思っているメーカーや代理店の広報担当者さんは充分注意した方が良いのではと思います。

周波数特性

Image credit: Kiwi Ears

メーカー公表の周波数特性は、概ね「ハーマンターゲットカーブ」に沿った形で良好で、実際の聴感ともほぼ一致します。

  • 人間の耳の音の「感度」は周波数ごとに異なり、概ね「等ラウドネス曲線」に沿うことに注意。
    ざっくり言えば、「等ラウドネス曲線」(個人差あり) に沿って室内でスピーカーから出力され伝播する各周波数の音を、測定用ダミーヘッドマイクで計測した特性を、ハーマンインターナショナル社の試聴室で定量的に実測して得られたのが「ハーマンターゲットカーブ」で、これも何度か更新されています。そのため人間の聴感上「フラット」と表現されるような音は、電気的/音圧的には「フラット」なグラフにはなりません。

パッケージと開封

Kiwi Ears CADENZA のパッケージは、11.5 × 8 × 3.5 cm 程度のコンパクトなケースに収まっており。パッケージはデザインも小洒落た感じで、スリーブにカラーやスペックなどが記載されており、品質も高く好感が持てます。
パッケージの記載によると「ベリリウムコート」ダイナミック型ドライバーを搭載しているのが、一つの技術的アピールポイントのようです。

スリーブを外してパッケージを開けると、きれいなツルッとした本体が現れます。

Kiwi Ears CADENZA は、全4色のカラーバリエーションがあり、今回はグリーンを選びました。なかなか綺麗です。

本体と付属品

ケースに内容物は次のような感じです。 本体とケーブルの他に、イヤーピースが3色と、簡単なガイドブックが入っていました。
イヤーピースは3種類とも同一形状で、おそらく本体が4色展開のため、合う色を選んで使う+モニター機のため予備として3セット用意しているのかもしれません。

キャリングポーチ等はなぜか付属していないので、適宜用意した方がよいでしょう。

本体は、長辺が約20mmの小ぶりなサイズで、おそらくほとんどの人にフィットするのではないかと思います。
ケーブルとの接続はフラットタイプの 2pin 端子で、付属のケーブル側端子がしっかり本体に密着できるようになっています。

ケーブルは非常にしなやかで絡まりにくく、タッチノイズもほとんど気にならないレベルです。プラグ部分は耐久性も高さそうでしっかりとした構造と材質で作られている印象があります。
ケーブルやプラグ、端子の作りは、この機種がモニター機であることをうかがえるポイントかもしれません。

装着感

装着感は非常によく、ハウジングが小型のため装着安定感はイヤーピースに大きく依存する形にはなります。
適度な遮音性もあり、In-Ear Monitor としては十分なスペックと思います。

Kiwi Ears CADENZA の音質レビュー

試聴前の準備:Burn-in (エージング)

音質レビューの前に、いつものように Burn-in ボトルに入れて、70hほどバーンインしました。 Burn-in には、ピンクノイズ等ではなく、あらゆるタイプの波形や周波数帯を含む百数十曲の「試聴用プレイリスト」をDAPでシャッフル・リピート再生しています。

試聴用プレイリスト

試聴環境

試聴には、Astell&Kern KANN ALPHA の他、iPhone SE や Unihertz Jelly2 に USB DAC として

  • FiiO Q5s-Tc
  • Shanling UA3
  • FiiO BTR5
  • HIBY FC3

等を接続したり、MacBook Pro 14"(2020) 上の Audirvana Origin Mac版 に上記 USB DAC をUSB接続して各種音源でテストしました。尚、個人的に日本の音楽は主に音質面の理由でほぼ全く聴かないのであしからず。

Kiwi Ears CADENZA の全体的な音の傾向

際立ったクセがほぼなく、傾向としてはややウォーム寄りで、高音域から超音低域まで比較的ニュートラルなサウンドという印象です。
ディティール表現もこの価格帯としては適度に感じられ、物足りなさもそれほどありません。

次の項目でも触れますが、サウンドステージは小さめで、音が目の前と頭の周囲に迫るような印象。奥行き感はそれほど感じません。
これは、Kiwi Ears のブランドコンセプトとして、ミュージシャンやスタジオエンジニアをターゲットにイヤモニ(IEM)とし使用されることを前提に設計されている点が影響しているのではとも思われます。

空間表現

おそらくステージモニターや演奏用モニターを狙って作られているのか、タイトな空間表現ながら、各音像の位置関係がよくわかるような表現です。 CD900STなどのレコーディングモニターや、フィールドモニターヘッドホンの、音が至近距離に迫るようなサウンドステージにかなり近いと感じました。ガチのモニター機と違って、音の粗は目立たないので、やはり演奏時のモニターやリスニングに向いている音のようです。

ボーカルや楽器をより近くで聴きたい、という方にも適しているかもしれません。

Krewella - Alive (Acoustic) [Official Video]
スタジオレジコーディングのこの動画、通常のイヤホンやヘッドホンではミックスによる奥行き感がわかるのですが、Kiwi Ears CADENZA で聴くと、ボーカルや楽器がより目前に迫り、奥行き感が圧縮されたように感じました。

低音域〜サブベース

低音域は、過剰な感じやぼやける感じもあまりありませんが、現代の洋楽のキック 40〜50Hz 付近はくっきりと聴こえ、リズムは取りやすいと思います。
ただ、30Hz以下が急激に落ち込むように感じられ、通常の録音音楽ではそこまでのサブベースを含む音楽は稀ですが、EDM やパイプオルガンの曲などでは出るはずの音が出ない感はありました。もっとも、モニター用途を主眼に開発された機種であれば20Hz付近はほぼ必要ない帯域なので問題はないでしょう。

Nora En Pure - Enchantment
▶️ Enchantment by Nora En Pure
超低音域(サブベース)から超高音域まで見通せる定番曲。イントロのゴロンゴロンという音がやや軽めに聴こえる感はあります。また、全体的に音がソフトでウォーム寄りに聴こえるので、それが Kiwi Ears CADENZA の音の特徴かもしれません。

中音域

中音域はボーカル曲ではやはり比較的至近距離に音像定位するボーカルの存在感を強く感じます。ただ、ボーカルはよく聴こえるけれど、それ以外の音がやや聴こえづらくなるような感覚があります。

Katie Melua - The Walls Of The World
▶️ The Walls Of The World by Katie Melua
やはりボーカルの存在感がかなり際立ち、低音のベースラインは追いやすいですが、パーカッション系がやや聴きづらく感じる傾向があります。

高音域

接続するDAC/AMPによってもかなり差がありますが、全体的に高音域がやや弱めに感じます。シンバル/ハイハットなど金物系の音が控えめなので、モニターイヤホンとして使って、高音楽器でリズムやタイミングをとるのはかなり難しいのではと感じます。
イヤーピースを付属のものから変えることでも改善はできますが、本体の価格がイヤーピースの価格にも迫る低価格で、付属イヤーピースは3セット付属するものの、1種類で3色のため音を調節する用途には使えず、ブランドコンセプトとのミスマッチが微妙なところです。

Redd Feat. Akon & Snoop Dogg - I'm Day Dreaming
▶️ I'm A Day Dreaming - David May Mix by Redd, Akon, Snoop Dogg, David May
高音域全体のバランスがイントロで一発でわかるこの曲。高音域のバランス自体は良いのですが、全体的に弱く感じるのが、Kiwi Ears ブランドが標榜するモニター用途では致命的かもしれません。尚、リスニング用途であれば全く問題ありません。

結論:Kiwi Ears ブランドが掲げるモニター用途には疑問だが、リスニング向けとしてはバンド音楽愛好家に受けそうな機種

ブランドとしてモニター用途をターゲットとするIEMとしては異例の、ソフトでウォームな音が気になりますが、音場空間の広さを求めずモニターライクなサウンドステージで聴きたい人には適した機種かもしれません。

モニター用途ならもう少し音の輪郭がくっきり聴こえた方が良いんじゃないのかな?と思ったりしますが、サウンドステージはモニター寄りでも、音の質感はリスニング向けという、個人的にはなんとも微妙な機種という印象です。
Kiwi Ears はミュージシャンやスタジオエンジニアに通用する音を目指しているようですが、CADENZA に関してはちょっとその目論みから外れているのでは?と感じます。遮音性も装着状態によってはモニター機としては頼りないので尚更。

ちなみに、自分では聴かないもともと音場の狭い日本のJ-Pop系音楽や、バンド構成の音楽には受けそうな音という感じで、そうした音楽を主に聴く方にはおすすめできそうな機種です。本体も小さくて長時間装着しても違和感がなく、聴き疲れしにくそうな点もリスニング向けによさそうです。

カラバリが4色あり、光の加減でキラキラと光り奥ゆき感のあるラメ模様も美しく、プレゼントなどにもよいかもしれません。

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