Sponsored Reviewこのレビューは、Linsoul Audio 様より試供品を提供いただいてのレビューですが、製品の評価は個人的に率直な感想を記載しています。
中国の TangZu Audio (唐族音频) ブランドのエントリーモデルとなる、この「WAN'ER S.G」という機種。中国の「唐」時代の女帝「武則天(則天武后)」に仕えた才女として知られる「上官婉儿 (日本語名:上官婉児, 上官昭容)」の名を冠したモデルで、パッケージにもそのイラストが美しく描かれています。
この「TangZu WAN'ER S.G」の海外価格は$19.9USD (約$20)、日本の Amazon では現時点で税込 ¥2,920 で販売されていますが、これは Apple の iPhone や iPod にかつて付属していた有線イヤホン「Apple EarPods」(税込2,780円) とほぼ同じ価格帯です。
しかし、その音を聴いてみると…これは本当に驚きました。ネット専売という販売形態によって価格が抑えられている部分もあるとは思いますが、この倍以上の価格の機種でもこのレベルの音質を実現できている機種は少ないのでは?と思うほどです。詳しくは後半の音質評価で。
TangZu Audio ブランドの製品自体は、日本でも「mimisora audio」さんが輸入代理店として取り扱っていますが、$20のこの「WAN'ER S.G」だけは日本では取り扱っていないのも、おそらく価格が安すぎて店頭販売では採算がとれないという判断なのかもしれません。しかし…(略
気になったら今すぐ試しに買ってみて損はありません。選択肢は「黒か白かで悩む」のみです! こんなイヤホンには今まで出会ったこともなければ、2千円台ではまず見たことも聞いたこともありません。(←若干誇張ありw
TangZu Audio (唐族音频) というブランド
突然ふと現れたブランド名という印象もある「TangZu Audio (唐族音频)」は、以前は「TForce Audio」としてIEM製品をリリースしており、今年2022年1月に、商標の問題から「TangZu Audio」にリブランドしたようで、全くの新興ブランドという訳ではないようです。
そういえば確かに、T-FORCE というブランド名はゲーミング用品メーカーがすでに使っていますし商標登録していそうですね…
この公式 Facebook ページで募集し寄せられた様々なQ&Aによると、他のブランドのOEM/ODMなどを行なっている/いた方を含む、7名ほどのチームで開発からマーケティングまで行なっているブランドのようで、「唐 (Tang)」という姓の方が3人もおり、もともと中国の「唐」時代にちなんだコンセプトの製品をリリースしていたこともあり、「唐族音频 / TangZu Audio」というブランド名になったようです(笑
さらに、今後IEM以外の製品への展開も検討している模様のようです。
ちなみに、各モデルの美しいボックスアート等は、若い女性イラストレーターに描いてもらっているとのことですが、中国メーカーに最近多い "Waifu" とは一線を画し、ブランドのコンセプトやイメージを的確に伝えられているようで、個人的には好感が持てます。
現在すでに、唐の唯一の女帝「武則天 (則天武后)」の名を冠した紫色のフェイスプレートが特徴的な、平面磁界ドライバーを搭載した機種「Wu Zeitan (武則天 / 則天武后)」が人気を博している他、龍のようなメタリックなハウジングが特徴的な「Shimin Li (李世民 / 太宗(唐)): 唐の第二代皇帝)」に加え、TForce Audio 時代にリリースされた「Li Yuan (李淵: 唐の初代皇帝)」もラインナップされています。
則天武后に仕えた才女「上官婉児」の名を冠した「TANGZU WAN'ER S.G」
「上官婉儿(上官婉児), 上官昭容」と呼ばれるこの女性、戦の絶えない中国の歴史の中で、壮絶な生い立ちながら頭のよさや詩文の巧みさから、則天武后(武則天)に気に入られ、宮廷内で詩人としても活躍していたようです。
そうした、背景を持つ 「WAN'ER S.G (上官婉児)」と名付けられたこの機種。詳細は後に触れますが、非常に周波数バランスがよいだけでなく、とりわけ「女声ボーカルの再現性」が秀でているように感じます。
TANGZU WAN'ER S.G のスペックとコンセプト
この WAN'ER S.G は決して低価格を目指した機種ではなく、サウンドチューニングは最高の結果を目指して設計されていることが、製品紹介の節々に見られます。
Image credits: TANGZU Audio
他の上位機種との明確な違いを目標設定した上で、おそらく熟練のエンジニアによる設計だからこそできる、$20という戦略的な価格設定ながら、価格帯をはるかに超える極めて高いレベルの音響性能を実現しているのではないかと想像されます。
TANGZU WAN'ER S.G パッケージ開封と内容
パッケージイラストの美しさに目を奪われますが…
パッケージを開けると、パッケージイラストを鮮やかに印刷した布が現れました!
この機種、$20未満なんですが…
パッケージの中も印刷が施され、こんな感じできれいに収まっていました。
TANGZU WAN'ER S.G パッケージ内容と付属品など
- WAN'ER S.G 本体
- 付属 2 pin ケーブル (qdc風カバー付)
- イヤーピース:AET07風 4サイズ + 小径タイプ3サイズ
- WAN'ER S.G (上官婉児) イラスト両面印刷クロス (クリーニング用…にするにはもったいない?)
パッケージデザインは非常におしゃれですが、価格帯的に収納ポーチは付属していないので、適宜用意するとよいでしょう。
個人的には、下の一番左のメッシュタイプのポーチ (AliExpress で購入) を多用していますが、Amazon でも売っているのを発見して推しやすくなりました(笑) ALO Audio / Campfire Audio のケーブルなどを買うとついてくるメッシュポーチとよく似たサイズのものです。
Amazonで販売している比較的安価なイヤホンケースの例
装着感や付属ケーブルなど
まず、筐体が非常に軽く、ダイナミック型ドライバーのエンクロージャー容積の必要性から若干厚みがあるものの、耳への収まり具合は良好です。特に出っぱった部分などがないため、長時間着けていても違和感を感じません。
付属のケーブルはタッチノイズもほとんどなく、取り回しもよいのですが、L字型のプラグ部が非常に薄い仕様で、接続する機種とプラグの向きによってはプラグ部がスイッチ等を隠してしまったり、干渉する可能性はあるかもしれません。
WAN'ER S.G のコネクタは、qdc に似たカバー付き 2 pin 端子が採用されています。少し試してみたところでは、本体シェル側の 2 pin コネクター周囲の樹脂の出っ張りは、qdc とほぼ全く同じ高さと太さのカプセル型の形状で、qdc 純正ケーブルはピンがやや太くて刺さりませんでしたが、WAN'ER S.G のケーブルは qdc URANUS に緩みなくピッタリ挿さり固定されました。あくまで参考例なので、やってみたら割れたとか抜けなくなった等の苦情は一切受け付けません(笑)
シェルの内部に補強用リブがない構造的にも優れた設計?
個人的にこの機種をあちこちから見回して感心したのは、他のメーカーのこのクラスの機種には必ずと言っていいほど入っている、シェル内周辺部の補強用の板状のリブが一切見られない点です。
よく見るとドライバーを固定するためのブラケットがシェルと一体成形で形成されているのは他メーカー機でも最近よくありますが、シェルの一番下の尖った部分が肉厚になっているため、その強度を利用してドライバーを強固に固定しているようにも見えます。また、この構造で強度と振動のコントロールが充分確保できるシェルの素材としては、ひょっとすると非常に高い強度をもつポリカーボネイト系樹脂 (戦闘機のキャノピーにも使われている) を採用しているのかもしれません。見れば見るほど、とても$20の機種には見えません。
TANGZU WAN'ER S.G の試聴準備
事前にバーンイン (しすぎたw
パッケージに説明書は特に入ってなかった気がするのですが、AliExpress の公式ストア "TANGZU Audio Store" に掲載されていた画像によると、
Image credits: TANGZU Audio
最初の30hはやや小さめの音量で再生、バーンイン時間は 30h〜50h を推奨としているようです。
そんなことは知らずに、頑張って 90h もバーンインしちゃいましたがw
バーンイン(和名: エージング)は、いつものようにあらゆる波形の音や鋭く強烈なアタックなどの音響エンベロープを含む、多彩なジャンルの100曲以上からなる試聴用プレイリスト(主にFLACデータ)を、自家製「Burn-in Bottle」に入れてDAPでランダムリピート再生。ピンクノイズとかバーンインマシンとかは、波形もエンベロープも限られていそうなのであんまり信用していませんw
- Spotify版: Audio Check Express - playlist by azalush | Spotify
- YouTube版: Audio Check Express - YouTube
試聴環境
今回も$20の機種ということで、当初はスマホ+ドングルDACを中心とした環境での試聴を想定していましたが、明らかに$20とは思えないレベルの音質のため、自分のメインDAP、Astell&Kern KANN ALPHA や、Mac版 Audirvana Origin に FiiO Q5s-TC(THXAAA) を接続したり、高級イヤホンを試聴する際と同じ環境で聴き直しました。
結果的には、どんな環境で聴いてもオールマイティに性能を発揮してくれる印象で、環境や音源による違いもしっかり描き分けてくれるようです。
TANGZU WAN'ER S.G の音質レビュー
総評
周波数レンジは超低音域から超高音域まで、際立ってしまうような周波数帯が特にない、ニュートラルながら絶妙なチューニングに感じます。苦手な帯域や物足りない帯域がありません。トーンジェネレーターアプリで試すと、自分の耳の場合は、4.2kHz、7.8kHz、10kHz 付近にピークがある感じで、概ね「ハーマンターゲットカーブ」+「外耳道の閉管共鳴」周波数に準ずる形となっていました。(音のピークがどの周波数に現れるかは、個人の外耳道の長さによって異なり、メーカーがカタログ値として示す図はあくまで国際的な計測基準に従った参考値です。一般には外耳道が長い人ほど若干低い周波数に、外耳道が短い人ほど若干高い周波数にピークが現れます)
特に絶妙なのが 4kHz 前後のピークの部分で、おそらくこの帯域によって女声ボーカルの倍音の質感がわずかに強調され、そのため女声ボーカルのニュアンス表現に優れているのではないかと想像しています。
全体の音質傾向としてはやや明るめで派手すぎず、寒色系の音も暖色系の音も両方得意とするような印象があります。
解像度はこのクラスの機種としては充分で、鋭すぎず緩すぎずで、聴き疲れしにくい音です。
さらに、筐体素材の影響なのか、付帯音が非常に少なく音が低音〜超低音域でも音がぼやけにくく感じます。音の細かなディティール表現もうまく描写しており、これも付帯音や不要振動の少なさが影響しているのかもしれません。
比較対象として、約4倍の価格になる1万円クラス($79.99)の「Whizzer HE01」と比べると、音のディティール表現の細かさでは HE01 に譲るものの、かなり肉薄した部分もあり、改めて「WAN'ER S.G」の $20という価格には驚かされます。価格がバグってます。
もちろん、数万〜10万円クラスの機種と比べるとディティール表現の緻密さなどでは敵いませんが、音の構成がシンプルな曲の場合、これで充分かも?と思う人がいてもおかしくないレベルです。
空間表現
音の空間表現や音像定位は、非常に自然で広がりのある音に感じられます。音像はシャープすぎず「程よい感じ」に立体的に定位し、とりわけ音の空間が広いわけではありませんが、それぞれの距離感はしっかり把握できる程度の精度は感じられます。
サブベース〜低音域
今や洋楽Popsのキックは40Hz〜50Hzのサブベース帯域が中心なので、洋楽Popsを聴けばどれもパンチのある自然なキックが楽しめます。
先にも触れたように、低音域〜サブベース域においても音がぼやけたり膨らんだりしにくいので、安心してキレの良いキックがズドーンと鳴る印象です。
中音域
「WAN'ER S.G (上官婉儿)」の特徴として、4kHz前後にピークがあり、特に女声ボーカルの倍音が絶妙という話を先に書きましたが、この機種の最大のポイントであり魅力はそこではないかと思っています。 女声ヴォーカルがとにかく気持ちよく、柔らかくやさしい歌声もツンと張り上げた歌声も、どれも誇張された不自然さがなく魅力的に聞こえます。
この機種に唐代の則天武后(武則天)に仕えた詩人でもある「WAN'ER S.G (上官婉儿)」という名前をつけたのも、そこに由来しているのではないかと想像してしまいます。
高音域
高音域は滑らかでかつシャープさも兼ね備えており、しかし刺さるようなキツく刺激的な音ではなく、適度に角の取れた聴きやすさがあります。その特徴は特にソプラノシンガーには最適な条件となり、シンバルなど金物系楽器の細かな振動もきっちりと拾ってくれる印象です。
いわゆる「刺さり」は基本的になく、低価格帯の機種によくある派手に聴かせるために8kHz付近を強調しすぎることもないため、素直に各楽曲の高音域を楽しめます。
結論:「TANGZU WAN'ER S.G」はとりあえず買ってよし、$20のベンチマークにもなる?機種
イヤホン/ヘッドホンを色々聴くと、それぞれ強い個性があったり、ごく稀にニュートラルな機種があったりしますが、「WAN'ER S.G」はその中でも稀有な存在のように思います。$20クラスというと、通常は音の傾向が激しくあちらこちらに向いている機種が多いところ、この機種のチューニングは間違いなく熟練のプロの仕業。しかも単調でなく女声ヴォーカルが映えるような小細工まで…
2色あるシェルも黒と白とでは模様も異なり、宣伝文句によれば、黒と白をそれぞれ買って右と左でそれぞれ陰と陽で楽しむのも趣あるとか(笑)。しかも2台買っても、巷の2台分の$40の機種よりも音質は優れている可能性が高いという余裕。
さらに、qdc互換(?)のケーブルコネクターにより、折れ曲がったりしない安定性のある 2 pin プラグのケーブルが使えたり、「キャリングポーチやケースが付属しない点以外は」ほぼ満点と言っても差し支えない機種と個人的には思います。本当にそうなのかどうか、買って試してみても、おそらく損はないでしょう。
もちろん、初めて有線イヤホンを買おうという人にも推せるイヤホンで、リモコンマイクがない点は、リケーブルや qdc の Bluetooth ケーブルを使うという手もあり。
試してはいませんが、日本でも発売が決まった qdc の完全ワイヤレスアダプター「qdc TWX」もひょっとしたら使えるかも?